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Ⅲ 騒霊現象には太古の魔術を
そして、その夜、準備万端済ませた俺は、カロリアーナ嬢ちゃんのベッドの脇で、異変が起こるその時をじっと静かに待った。
「――ねえねえ、おいたん、何かお話ししてよ」
……いや、静かにというのは嘘だ。誤算だった……すぐに寝ると思い込んでいたカロリアーナがなかなか眠らず、しつこくお話をせがんできたのだ。
「おいたんじゃなくて、お兄さんな。しゃあねえな、んじゃあ一つ、超絶カッコイイ、ハードボイルドな男の話をしてやるぜ……昔々、あるところにカナールという生まれながらにハードボイルドな男がいました――」
幼子に純真な瞳でお願いされちゃあ敵わねえ。仕方なく、俺は自分の半生をモデルにした昔話をしてやることにする。
「――おじたん……つまんない……ムニャムニャ……」
「そこで、俺はハードボイルドにこう言ってやったんだ…ん? なんだ、寝ちまったのか」
だが、俺のお話がそうとう心地好かったのか? 気づけばすやすやとカロリアーナは寝息を立てて眠っている。
こっからがクライマックスだったってのに、途中で終わっちまって少々不完全燃焼ではあったが、ま、これでようやく本題の仕事にとりかかれる……と、思った時のことだった。
「……ん? ようやくおでましか?」
突然、ガタガタと、机やベッド、ドアやクローゼットの扉までがガタガタと揺れ始めた。
「……ううん……あ、キーンが来たよ……」
その激しい音と揺れに寝入ったばかりのカロリアーナも目を覚まし、寝ぼけ眼で前方を見つめながらそんな言葉を口にする。
「あん? ……っ! これは……」
その言葉にそちらを覗うと、部屋の中央には何やら黒い煙のような、透けた人影のようなものがいつの間にやら現れていやがる。
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