Ⅲ 騒霊現象には太古の魔術を

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「俺の名はカナール……この世界唯一の怪奇探偵さ」  不気味なしわがれ声で尋ねるその霊に、俺は片手で三角帽(トリコーン)をかぶり直しながら、ハードボイルドに決め台詞を口にしてやる。 「そう言うてめえこそ何もんだ? なんでこの家に祟る?」 「……俺ハ、キーン……コノ家ノ使用人ダッタ者ダ……」  続けて俺も訊き返すと、カロリアーナ嬢ちゃんの言う通り〝キーン〟という名前らしいその霊は、意外なほど素直にその理由を語り出した。 「俺ハ、主人夫婦ニ毎日繰リ返シ折檻ヲ受ケ、最後ニハ殺サレタ……俺ダケジャナイ。ソノ後任ノタンジーノモ、テラーモ、ルシュモ、ミンナミンナ同ジ様ニ命ヲ落シタ……ダカラ、皆デコノ家二取リ憑イテイル」 「なるほどな。確かにパワハラのキツそうな夫婦だったからな。その怨みで仕返ししてるってわけか……」  カロリアーナの言ってた〝他にもお友達がいっぱいいる〟ってのはそういう意味だったか……長女のダナエラ、長男のロービンの言いかけたことともこれで繋がったな。 「けど、そんなブラックどころじゃねえ屋敷なら、すぐに噂が立って募集してももう人が来ねえだろ? そのわりにゃあ今も使用人はいるようだし、なんかおかしかねえか?」  だが、少し得心のいかねえところのあった俺は、その疑問について尋ねてみた。 「悪イ噂ガ立タナイヨウ、スティヴィアノハ俺達ノ死体ヲ密カニ海ニ捨テ、周リニハ失踪シタ事二シテイル……ヤツラハ、人ノ皮ヲ被ッタ悪魔ダ……魔術師ヨ、我ラノ無念ヲ思ウナラ放ッテオイテクレ……」  キーンの霊は質問に答えると、俺のことを魔術師と呼んでそんな頼みごとをしてくる。その話が本当なら、確かに同情余りあるところではあるが……。 「そう言われてもなあ。俺もあんたらをなんとかしねえと金もらえねえし……」  キーン達が化けて出ている理由を知り、このまま強制的に祓う気も失せちまう俺だったが、その時、またもドン! ドン! と部屋の入口のドアが鳴った。 「おい! どうなってる! 悪霊は祓えたのか!?」  だが、今度は騒霊現象(ポルターガイスト)ではなく、騒ぎを聞きつけて来たスティヴィアノがドアをノックする音だった。 「チッ…とりあえず今日のところはお開きだ。ちょっと時間をくれ。万事うまくいく方法を考えるぜ……」  悪霊の風上にもおけねえクソ野郎だが、俺に金をくれる依頼人であることも違いはねえ……俺はやむなく仕切り直すことにすると、魔法円の一角を擦り消してキーンの霊を解放した――。
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