10.僕が君の指になる -真人-

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「冬兄さんは知ってるの?」 その問いかけに、 瞳矢はゆっくりと横にふった。 「先生には伝えてるけど、  兄さんにも家族にもままだ伝えてない……。 今はしばらく時間が過ぎたら手の症状も落ち着くから。 ずっと六月から投薬治療を続けてきたし、 皆、その薬に希望をのせてここまで来てる。       完全に治す薬じゃない。 症状の進行を遅らせる薬だって、 その意味を嫌ってほど感じ取ってるところ」 そういった瞳矢の低い声が、 僕の心に重くのしかかった。 「ごめん、姉ちゃん。 すぐ行くよー。夏休みの宿題、まだ終わってなくて格闘してたー」 なんて嘘を明るい声で出すと、 瞳矢は、にっこり笑って部屋を出ていった。 「もう、瞳矢。何してるのよ。 二学期も始まってるのに夏休みの宿題って」 「宿題、大変なんだよー。 ほらっ、右手でペン持つの大変なの知ってるだろ」 そういって、瞳矢は今、 右手が不自由なのを受け止めて当たり前のように 振舞いながら会話を続けようとする。
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