13人が本棚に入れています
本棚に追加
/99ページ
その日の放課後、
学校が終わって僕たちは校門前で別れた。
瞳矢は通院日の為、おばさんと出かけた。
そして僕は、バスに乗って父の病院へと足を運ぶ。
「あらっ、真人くん。こんにちは。
学校終わったのね?」
多久馬総合病院のエントランスには、
冴子おばさんから送られグランドピアノが展示されていた。
ふと引き寄せられるようにピアノへと向かう。
鍵盤の蓋を開けて、フェルトを取り除くと、
ゆっくりと鍵盤の上に指を乗せた。
一呼吸して、その位置から周辺を見渡す。
あっ、あそこにいる子供、ちょっと気になってそうかも。
そう思いながら、僕は軽く目を閉じて鍵盤の上に指を走らせた。
確か……、母さんとよくやってたんだ。
こんな遊びを……。
ミスタッチも気にせずに鍵盤に指を走らせ始めたのは、
大好きなリストの鬼火。
超絶技巧を無心に弾いていると、
雑念がなくなって、頭の中がクリアになる瞬間がある。
中学生の僕が超絶技巧ばかり好んで演奏してたのは
ただ無心になれるのと、母さんに負けたくなかったから。
咲夜に負けたくなかったから。
最初のコメントを投稿しよう!