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2話
「よし、じゃあまずはその、目に毒な状態をなんとかしようか」
チカはクローゼットをガサゴソした後、ロングコートを取り出し裸体のゴトー君に着させた。
「……なんだこの犯罪臭は」
てっとり早く全裸を解消しようと思って取り出したのに、全裸にコート、隙間から覗くモノのせいで悉くアダとなっている。
『痴漢プレイですか? お任せください』
「違います」
チカは再びクローゼットの中を漁り、グレーのジャージを着せることにした。身長の高いゴトー君に合うようなサイズを、未婚の彼氏ナシ女が持っている訳もなく、唯一ユッタリしている服なのだが、やはり袖や裾が足りずチンチクリン状態であった。
「まあ、ひとまずこれで我慢しよう。要は裸じゃなけりゃいいんだから。どうせならオプション付きのが届けばよかったのに」
『設定変更は可能です』
「え?」
『ドSヤンデレ仕様とか、陰湿絶倫仕様とか』
「大丈夫。一生使わないから。私が言ってるのは服のことだからね。私メイドが欲しかったのよ」
『ご主人様、ご報告があります』
「どした」
『ボクはメイドは出来ませんが、執事なら可能です。執事とお嬢様プレイはいかがでしょうか』
「家事をして欲しいんだってば」
『カジはご主人様の愛液を掃除する以外にどんなプレイがありますか?』
「あのね、私が求める掃除はそれじゃないから。いやもういいんだ掃除は。それ用の小型ロボット持ってるから」
チカがテーブルに置いていたリモコンを操作すると、部屋の隅に待機していた丸い機械が床を這っていく。
その動きをジーと目で追うゴトー君を確認してからチカは教えた。
「これが掃除ね。床のゴミを集めて吸い取ってクリーンにしてるの。まあこれはそれしか出来ないから、ゴトー君にはお風呂掃除とかそのうち覚えてもらおうかな」
『お風呂でのプレイですね。お風呂でご主人様の愛液のお掃除ですね』
「よしわかった。特別に新しいプレイを教えてやるからしっかり学びなさい」
チカはめげずにゴトー君に、コーヒーの作り方や冷凍食品の温めなど、とても初歩的なことから教えることにした。
次の日、ヘロヘロになった月曜の職場からの帰宅。チカは帰宅後もヘナヘナと尻をついた。
「なんじゃこりゃ」
昨日、超初歩的な家事を教えたばかりだ。簡単とは言え、帰宅後疲れきった体で空腹を満たす為に動くのも億劫だからと、帰ってくる時間を見計らって、冷凍食品の温めと、コーヒーやお茶の準備をお願いしていたのだ。
なのに、部屋中の家具が移動しまくって、違和感まみれの配置に収まっている。泥棒でも、こんな無駄なことはしない乱しようである。
『お帰りなさい、ご主人様』
パッツパツのジャージの爽やかイケメンゴトー君が笑顔で迎えている。
「これは何事?」
『ボクもお掃除出来るところをお見せしようかと』
「……家具でテトリスでも始めたんじゃなくて?」
『アイツに負けたくないので』
そこで、ゴトー君が視線をやる“アイツ”なるものを見ると、お掃除ロボが裏返しにひっくり返されて虚しくブラシを空中で掻いていた。
「……ゴトー君……」
『ボクなら家具の隙間も掃除できます』
「なぜ張り合ったの。だから家具が倉庫風に置かれてるのね、居住感ない感じよね。とりあえず移動したものは元の位置に戻そうよ」
『ご報告があります』
「嫌な予感」
『家具を動かしたのはいいのですが、ボクには掃除機能がついておりませんでした』
「だよね。綺麗にもなってないのね。うち、掃除機も置いてないしね」
『まだライバルがこの世にあるのですか』
「気にしなくていいよ、買わないから。この掃除ロボあるし」
『アイツを頼るのですか。ボクも頼ってください』
「うん、頼るよ。この家具戻せるのゴトー君しかいない」
『任せてください!』
イソイソと、ゴトー君が家具を動かし始めたのを横目で見ながらチカは深い溜息をついた。
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