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 次の日の放課後、部活が終わってから、俺はみかげを、部室棟の裏に呼び出した。  ドギマギした気持ちは変わらず、それが本当は何を表しているのか、俺には正体がつかめずにいた。  自分の気持ちなのにもかかわらず。  待っていると、みかげは制服で現れて、普段通りの顔をしている。 「あの。昨日のことなんだけど」俺は切り出した。 「うん?」 「あれって、つまりさ。そのー」  俺のぼそぼそとした声に、みかげはしびれを切らしたように言った。 「いいよ、もう」 「え? いいって、何が」 「言わなくて。あのね」 「うん」 「お友達から始めませんか?」  みかげは、にっこり笑って言う。 「……友達、だけどね。今も」 「じゃなくて。自分から呼び出しといて、往生際が悪い!」  そのとおりだった。  でも、俺は心配になる。  それは、親友から別の方向に舵を切るということだから。 「うまくいくのかな」俺はつい弱気になる。 「うまく行かせようよ」いつものきっぱりした口調で、みかげは言う。 「……だな」  俺が言うと、みかげは右手を差し出した。  俺はその手に握手する。 「ちがうよ、もう」  彼女は笑い、右手を開いて、左手で俺の右手を握って言った。 「手をつなぐ、だろ。ふつう」  ふつうって言えば、と俺は昨日のことを思い出す。 「手をつなぐ、が先だろ、ふつう」 「ごめん、ごめん」  みかげは笑う。  二人の手が汗ばんでいて、どっちの汗だかわからなくなる。  どちらからともなく、手を離した。 「一緒に帰ろうか」  俺は言い、もう一度手をつなぐ。  うつむき加減のみかげが、そっと手を握り返してきた。 (終)
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