ヘンタイはじめました

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ヘンタイはじめました

 大江戸線のとある駅の階段を上り、慣れないパンプスで夜の街の路地裏を七分歩いたら、目的地のマンションが見えた。マンションの薄暗い地下に降りる階段の突き当りには、小さなスペースがあり、正面に重々しいドアがあった。  何の標識もないので、本当にこの場所でいいのかという不安があったが、思い切って、ドアを開けると、右手に机があって、おじさんが一人座っていた。 「こんばんは、はじめてかな」  おじさんに言われて、僕はお返しに頭を下げた。 「真紀さんに誘われて」  僕が言うと、おじさんは、誰だっけという顔をした。  すると、後ろから 「やまちゃん、マッキーのことよ」  ロングヘアの少し小太りの女性が背後から僕の前に回り込んだ。 「女装さんは五千円ね」  僕はポケットから五枚の千円札を取り出すと、おじさんに渡した。真紀に言われて、買ってきた差し入れの缶チューハイの十二本パックを渡した。 「ありがとう。私、アイコっていうの、よろしく、で、誰だっけ?」  名前を聞かれているんだと理解するのに、約十秒。 「純といいます」  女装名を伝えた。 「純ちゃんね。ようこそ、ヘンタイの世界に」  密閉された空間に、アイコさんの声がこだました。
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