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部屋に戻ると、私は改めて先ほどの質問文を読み返してみた。 やはり何度読んでも私と父の関係に似ている。 だから、私はこの質問を客観的に捉えることができなかった。 私は基本的に、質問に対してはあくまで客観的な立場から回答をしている。 当事者では気づかない、あるいは気づいていてもそうとは思いたくないことを的確に指摘するのが私のスタイルだ。 しかし、この質問の場合、私はそういったスタンスを取ることが難しかった。 なぜなら、この質問主が娘との間に抱えている問題は、私が父との間に抱えている問題とほぼ同じものだからだ。 だから、いつも質問に対しては真摯に向き合っているつもりだが、いつも以上に、自分の人生に関する問題と同じくらい真剣にこの質問に向き合わなければならないと思った。 けれど、この質問に対して私が的確な意見を述べることができるだろうか? 私だって、父との関係をどうにかしなければならないとずっと思ってきた。 こうやって父といつまでも仲違いをしたままだと、いつか後悔するということは分かりきっていた。 父の命だって永遠のものじゃない。 いつかは必ず終わりを迎えることになる。 そのときになって、父ともっと話をしておけばよかっただとか、親孝行をしておけばよかっただとか思ったところで、それは余りに遅すぎる。 だから、父とちゃんと仲直りをするべきだ。それは分かっている。 けれど、私もこの質問主と同じように不器用で、素直になれない。 こんな私が、この質問者の悩みに対して何を言えばいいのだろうか。 私は悩んだ。 だがとにかく何か回答しなければならない。 もらった回答リクエストに対しては迅速に、かつ丁寧に回答をするのが私の主義だ。 それによって私はこのヤフォー知恵袋で確固たる地位を築き上げてきた。 しばらく考えたものの何も思いつかなかったので、当たり前のことをひたすらこねくり回したような回答を書き上げた。 『回答リクエストありがとうございます。 私も同じような立場(私は娘の方ですが笑)にいて、考えさせられることがたくさんありました。 是非とも、質問者様の力になりたいと思います。 何もしないで後悔するよりは、行動を起こして後悔する方が良いとよく言いますからね! 本題に入ります。これは質問者様も仰っていたことですが、いきなり仲直りをすることは難しいでしょう。 物事は、段階的に処理していくのがもっとも現実的です。 歌手になりたいと願ったその翌日から、いきなり歌手になれるなんてことはありません。 日々、少しずつステップアップしていくことで実現できるのです。 それと同じです。 というわけで、最初はどんな些細なことでもよいので、まずは娘さんに何かを話しかけるということが大事だと思います! 久しぶりに話すでしょうから、ぎこちなくなるとは思いますが、それでもかまいません。 とにかく話しかけることが第一です。 いわば、新しいクラスでの友達作り(質問者様にとっては遠い昔のことでしょうが笑)と同じ要領です。 話しかけないことには何も始まりません。 とはいっても、私はこれをできずにいるのですがね…笑  カテゴリーマスターのくせして、当たり前のようなアドバイスしかできなくて申し訳ないです! でも、しばしば解決策というものは最もシンプルな方法であったりするものなのです。 私は質問者様を応援しています!よければまた結果等知らせてくださいね。 メルティー』 「どんな些細なことでもいいから話しかける、か…」と私は呟いた。 私はそれがずっとできずにいるくせして、何を言っているのだろうか。 それが誰かの一言によって簡単にできるなら、四年間も引きずらないはずなのだ。 思えば私は他人の人生にばかり口を出して、自分の人生の問題を放棄し続けてきた。 誰かにアドバイスを与えて悦に浸っているとき、何かとても徳の高いことをした気分になっているけれど、その間にも、自分の人生の課題は、プレイ中に放置されたテトリスのブロックのように危険な構造で積まれていくのだ。 ああ、いっそ、上手いこと人生の課題を積んだらテトリスのように全て消えてくれればいいのに。 自分の人生に積まれたブロックをひたすら消していくだけの毎日に私は嫌気が差していた。 ゲームはいつか終わりを告げる。そのスコアが一体何になるというのだろう? 死んでしまえば何もかも終わりなのに。 私はそんな下らない人生のブロック消しが嫌で、誰かの人生に入り込んでいるのだ。 人から感謝されるというのは、私にとってある種の麻薬のようなものだ。 その快感を知ってしまえば、もうそこから抜け出すことができない。 回答を送信すると、パソコンを閉じて布団に飛び込んだ。 そして、天井を眺めながら、ただぼんやりと父親との記憶を頭に浮かべていた。
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