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家に帰ってヤフォー知恵袋を開き、依然として返事が来ていないことを確認すると、布団に飛び込みそのまま眠りに落ちてしまった。
ハッと、突然私は目を覚ました。
とても嫌な夢を見た。
起きてしまえば急速に輪郭はぼやけていき、もはや何の夢だったのかも思い出せない。
けれど、とにかく、とても嫌な夢を見た。
夕方頃に寝ると決まって嫌な夢を見る。
時刻はもう午後10時前だった。
私は、2時間ほども眠っていたのだった。
「そうだ、返事」
そう思い、私はすぐにパソコンを立ち上げ、ヤフォー知恵袋を開いた。
「あった…!」
通知が来ていた。
カーソルをゆっくりと動かす。息を呑む。
そして、恐る恐るクリックして、返事の中身を確認した。
『メルティー様、御返事ありがとうございます。
具体的に何と言って話しかけたのか教えて欲しいとのことですが、やはりそれが分からないとアドバイスのしようがないですよね。
失礼いたしました。
私が娘に話したことの内容としましては、お風呂上がりの娘に「風呂入ったのか」と尋ねたということです。
本当にしょうもないことですよね…。
見れば分かるような当たり前のことだったので、娘も返事に困ってしまったらしく、「うん」としか言いませんでした。
少し娘をイラつかせてしまったでしょうか?
「見れば分かるでしょ?」と怒られても仕方ないようなことかもしれません。
なので、もうちょっとマシなことで娘に話しかけたいのですが、私の力不足のために、そのようなシチュエーションが思い浮かばないのです。
何かこう、もっと自然に話しかけることができて、なおかつ返事に困らないような話題はないでしょうか?
アドバイスよろしくお願いいたします…。』
ビンゴだ。絶対にこれは私の父親だ。
何もかもがぴったり当てはまっている。
もうこれは確信してもよいことのように思えた。
この日本に、私と全く同じ状況にある父娘が他にいる可能性は、限りなく少ないはずだ。
父は、このヤフォー知恵袋で推進力を得て、私との関係をやり直すために動き出しているのだ。
奇妙なことに、私と父が仲直りをするために父にアドバイスを与え、その背中を押してやるのは、この私自身だ。
主導権は私にあると言っても過言ではないだろう。
父はまさかメルティーが自分の娘だなんてことは思ってもいないだろう。
父は私とやり直したいと思っている。
それは確かなことだ。
では問題は『私は父とどうしたいか?』ということだ。
もちろん、父を完全に許したわけではないけれど、このまま意地を張って拒絶し続けても、絶対に後悔することになる。
素直になれない私に対して、せっかく父の方から歩み寄ろうとしてくれている。
父を操り人形のように扱うのは癪だが、まあ今までの感じから言って、父は恐らくほとんど私のアドバイス通りに動くだろう。
こんなチャンスは二度と無いだろう。
「父とやり直すために私も動こう」これが私の答えだった。
『ご返事ありがとうございます!
んー、「風呂入ったのか」はさすがに見れば分かること過ぎて、困っちゃいますね笑
でも、これも、「どんな些細なことでも話しかけるべき」と言った私に責任があります。
些細なことと言っても、やはり返事に困るようなことではむしろ逆効果となってしまいかねません。
ですから、見て分かるようなことではなく、聞かなくては分からないことにする必要があります。
たしか、娘さんは大学を留年してしまったと仰っていましたよね?
ですから、大学のことを尋ねてみるのはどうでしょうか?
もちろん、責め立てるようなことを言っては娘さんを苛立たせてしまうだけですので、「最近大学どう?」くらいの優しい口調でいきましょう。
では、良い結果を待っています!』
さあ、父はどのタイミングで話しかけてくるのか?
時間的に、もう家にはいるはずだ。
そのとき、階下で母が私を呼ぶ声がした。晩ご飯だ。
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