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「此所の掟は知ってンだろ、そう・・・男娼に触れてはいけないってェ鉄の掟を、さ。てめェにされた口づけだって、本当は」  市松はそう言いつつ雛次の唇を見る。勇ましい瞳、その凜々しい顔立ちの中に、色味の薄い唇が半開きで震えている。 「臼井さんは・・・昔、俺が一方的に惚れてただけだ。今は───」  やはり、と市松は思う。そう、ただならぬ関係なのは分かっていた。  でもそれなら尚のこと、雛次は帰れば幸せになれるに決まっているのだ。 「・・・此所から出られる男娼なんていねよ。お前だけだ───お前だけのものだよ、この、自由は」  考え直せ、そう市松は雛次に告げる。頸元に添えられた手を、そっと戻そうとしたその時─── 「ん・・・ァ」  市松は雛次の口づけをまた受ける。此奴は何故、俺を挑発してくるのか───もしかしたら、自分を試しているのか、とも思う。でも昨日の口づけとは違い、今日は雛次の必死さが伝わってきて何故か胸が痛くなる。  戸惑いながらも、市松は口づけを受け、徐々にその掴んだ肩には力が伴ってきていた。 「駄目だろ、雛次っ・・・これ以上はっ・・・」  それでも必死で縋り付く雛次に、市松はとっくに反応している自分を隠しながら、制止の腕に力を入れた。その途端、雛次の胸元がはだける。 その紅い襦袢の隙間から覗いたのは可憐な薄紅色の乳首で、市松の心は最大限、揺れた。ここに口づけたら、一体どうなるのだろう。今まで雛次を抱いた男達の姿が蘇り、また消えていく。 「いち・・・まつ・・・」  色っぽく囁いて、雛次が濡れた目で見つめてくる。市松はその尖っている乳首にしゃぶり付く。そう、まるで悪魔にでも魅入られたように。 「ああっ・・・」  眉を顰めて快感を顕わにする雛次は、殴り合いをしたあの日の雛次とは違う。その身体に幾重にも「快感」を覚えさせられた男娼なのだ。尖った突起を舐めると、ほんのりした塩分と汗の匂いで市松の針は更に猛るのが分かった。背に手を回し、おかしいくらいにその場所を貪る市松がいた。 「ふ・・・ううっ・・・あ、あ、いち・・・」  この身体に没頭したい。でも、それはしてはいけないことだった。雛次の瞳から涙が滲むのを、市松は見つめていた。それから黒い前髪をそっと撫で、額に口づけた。 「よく考えろよ・・・お前の身体なんだ。誰のでもねェ。お前の人生、これだけじゃねェだろ。それに・・・俺には」  途端に雛次は市松を睨む。あの快感の表情など、何処かに隠して。 「・・・!お前もそうだ・・・偽善者だ・・・抱けも、殺しもできねェ癖に、知った風な口ィ聞きやがる」  出て行け、そう雛次は言った。  市松はその言葉に従った。  襖の閉まる音と同時に、雛次はそこに座り込む。 「畜生っ・・・」  雛次の拳が、畳を強く打った音が聞こえる。それから、雛次はまた涙を零すのだった。
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