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晴れやかな場所に晴れやかな天気。 こんなに華々しい場所があんなに似合う人達が他にいるだろうか。 そう思ってしまうほど、着飾った彼らは美しく眩しかった。 招待された人達は誰もが嬉しそうに美男美女の彼らを祝福していて、晴れ渡った空すらも彼らの門出を歓迎しているようだった。 彼らも彼らで、集まってくれた人々に笑顔で手を振り写真撮影に応じたりしている。 俺を撫でていたあの手は、今は華奢な手を引いて歩いてる。 俺の手ではない、もっと美しい手。 白くて細くて、守りたくなるような手だ。 あぁ、本当に見た目だけはお似合いだな。なんて感想はひねくれ過ぎているだろうか。 「はぁ…」 思わず溢れた溜め息を、一体誰が拾うだろう。 この場で心から彼らの幸せを願えていないのは、きっとひねくれた俺くらい…と、思っていたのに。 そのひとの姿を偶然視界の端に捉えた時に、俺は悟ってしまった。 木に凭れかかり、気怠げに腕を組んで立っているそのひと。 一つに結った長めの黒髪をさらりと肩から流して、遠い目をして幸せそうな二人を眺めている美麗なそのひとは。 そのひとは、いや、このひとがもしかして。 俺の視線に気付いたらしいそのひとは、ゆっくりとした動作で俺の方へ振り向いた。 視線が重なる。 さわさわと揺れる木陰がその時だけはピタリと止んで、静寂が辺りを包む。 祝福の歓声がやけに遠くに聞こえて、俺とそのひとだけがその空間に取り残されているような感覚がした。 ふわりと微笑むそのひとは、木の妖精だと言われても納得してしまいそうなほど儚く美しくて、どこか浮世離れしていて…気のせいか、どこかで見たことがあるような気がした。 芸能人なのかな。 こんなひとと知り合うことなんて、普通に生活していたら中々無いだろうし…。 あいつも結構美形だと地元ではずっともてはやされていたけれど、このひとも負けず劣らずの美貌だな。 正装しているからか、尚のことスタイルの良さが際立って見える。 なんて観察しているうちにも、そのひとは一歩一歩俺に近づいて来ていた。 ふわりと爽やかな匂いが頬を掠めたと思ったら、これでもかという至近距離まで顔を近づけてきていたそのひとの声が、耳元で響く。 「やっと会えたね」と。 何を言われているのか分からずにぼうっとしていると、顔を離したそのひとはまたふわりと柔らかい笑顔を浮かべて俺の顔を覗き込んできた。 「あ、の…」 「ごめん。やっと見つけてくれた、の間違いだね」 「…はい?」 「きみはあの、旦那さんの浮気相手でしょう?」 「っ!」 突然核心を突かれてドキッとしてしまう。 そうだ、そうなんだ。 本当は俺にはあの二人を祝福する権利なんかなくて、今日の結婚式だって出席するつもりなんかなかったのに。 どうしてもとあいつが頼んでくるものだから、一番仲の良かった俺が行かないのも不自然に思われるだろうからと言われて、のこのこやって来てしまった。 なんて建前だ。 …本当は、自分への戒めのつもりだった。 一度は本気で断ろうかと思ったあいつの結婚式。 だけどだからこそ、行くべきなんじゃないかと思ったんだ。 幸せそうな彼らをこの目に焼きつけて、今までだらだらとあいつとの関係を続けてきてしまっていた自分への戒めにするつもりだった。 そうして俺なんか幸せになる資格は無いんだと、そう思い知るつもりでいた。 そんな考えを知ってか知らずか、黒い美人さんは俺の隣でまたふっと微笑う。 「おれもなんだよ」 「え?」 「おれもね。あのお嫁さんの、浮気相手」 「え」 予想はしていたけれど、まさか本人からこうもあっさりバラされるとは。 俺よりも背の高いそのひとを、思わず目を真ん丸く見開いて凝視してしまう。 そんな俺に穏やかな眼差しを向けてから、そのひとは純白の衣装に身を包んだ花嫁へと視線を移した。 その数瞬に瞳に宿っていた温度がすっかり抜けてしまったような気がした。 「まぁ、それももう終わったんだけどね」 「…そう、ですか」 何と言ったらいいのか分からない。 このひとは、裏切られて怒ってるのか。 悲しいと思っているのか。 それとも俺のように自分を責めているのだろうか。 何も言えないまま俯くと、頭にポンと手が乗せられた。 おかしいな。 よく知っているあの感覚とは違っているのに、泣きそうになってしまう。 俺はもうあいつの隣には立てないのだと思う度にきゅっと唇を引き結んで堪えてきたのに、この動作だけで堪えてきた全てが溢れ出してしまう。 初対面のひとに、そんな醜態を晒す訳にはいかないのに。 ましてやあいつの晴れの舞台で、そんな理由で泣くつもりなんて毛頭無かったのに。 じわじわ込み上げてくる感情が滴になって目から溢れ落ちそうになった頃、視界が、いや、身体ごと何かに包み込まれた。 抱き込まれたのだと気付いた頃にはもう、そのひとのスーツにいくつか染みを作ってしまっていた。申し訳ない。 しかしそんなことは気にせずに、出会ったばかりのこのひとは優しく頭を撫でてくる。 まるで幼い子供でも嗜めるように。 「あの?すいませ、俺」 「だいじょうぶ。もう、だいじょうぶだからね」 きみが苦しむ必要なんてないんだと、初対面の筈のそのひとは言った。 そんな筈はないだろうと言い返したかったのに、嗚咽で言葉が出なかった。 情けない。情けないなぁ、もう。 「ねぇ。このあと、空いてる?」 「へ」 「きみと話がしたいんだ。いいでしょう」 「…はい」 背中にそっと手を回すと、耳元でまた息が漏れる。呼応するように俺を抱き締める腕が強くなったと同時に、不思議なそのひとは何かを見て笑った。 「うわぁ、すっごい形相だなぁ…」 「…?」 「ううん、何でもないよ。そんなことより、きみの名前は?」 「あ、俺は」
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