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「なぁ、お前彼女とかいるの?」
月曜日の夕方。会長と二人で残って仕事をしていたら、彼が不意にそんなことを聞いてきた。会長とそんな話をしたことがなかったのでなんとなく緊張してしまう。
「こんな男子校に通ってて、恋人がいると思いますか?」
恋人、なんてこの学園にいる限り縁のない言葉だ。もちろん、仲には男同士でくっついているカップルもいないことはないが…、いや、かなりいるが。
ここは、山奥にあるお金持ちたちが通う学園であり、中高一貫の男子校だ。思春期真っ只中に男しかいない環境に放り込まれたことで、ゲイやバイの生徒が沢山いる。
彼_______、生徒会長である柊 晃樹(ひいらぎ こうき)は端正な顔立ちの生徒で、学園の生徒にとても人気だった。
まぁ、面倒見も良くて優しいので人気なのは理解できるが…。
僕が嫌味たっぷりに言い返したその言葉を聞いて、会長はケラケラと笑いながら「あ〜、やっぱりみのりにはいねぇよなぁ〜〜」と言う。なんとなくむかつく。
「逆に、会長には彼女がいるんですか?」
会長は、この学園の男子にものすごくモテる。かっこいいし、優しくて明るい。そんな会長は信頼もされていて生徒から人気だった。今朝も、一年生に告白されてたし。
「彼女って言うか、許婚がいる。」
「えっ、そうなんですか。」
初耳だった。良いとこのお坊ちゃんだとは思ってたけど、許婚なんて制度が現代の日本にもあると知って正直驚きを隠せない。
「あっ、今の内緒な。一応、一族の中の重大機密って奴だから。」
「…、なんで僕に重大機密、話しちゃったんですか…。」
ただの学園の後輩に重大機密をなぜ話すのか。会長は賢いように見えて馬鹿なのか?
…いや、この話をしたからには何か意味があるとしか思えない。
「なんか、企んでます?」
私がそう聞くと、会長はニヤッと笑って私の手をグイッと引っ張った。
彼の端正な顔が目の前に来て、少し慄いてしまう。笑っていない会長の顔はゾッとするほど綺麗で、なんとなく直視できない。
「なぁ、お前、俺と付き合ってるフリしてくれねぇか。」
彼は耳元でそう囁いた。
この出来事は、僕_____、穂波 実(ほなみ みのり)にとって重大な人生のターニングポイントになった。
このときの僕は、そんなこと思いもしなかったけれど。
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