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コポコポとお湯の沸く音はいつ聞いても心なごむ癒しの音楽です。おまけにパイの焼ける素敵な匂いまでついているとなれば、もうこれ以上何も言うことなどないくらいに完璧でした。魔法薬を作るために薬草や鉱石を煎じる匂いも、ルタニには格別心を落ち着かせる良い香りには違いありませんが、やはり台所にはお菓子や紅茶の匂いこそが最上のアロマでしょう。
ルタニはオーブンの扉を少しだけ開けて薪の様子を確かめるついでに、香ばしい匂いを漂わせるリンゴのパイの焼け具合をチェックしました。こんがりとちょうどいい色に焼き色がついて、いかにも美味しそうです。
「うん、よさそうだ」
ルタニはパイを注意深くオーブンから取り出して、今度は紅茶の仕度に取り掛かりはじめました。ティーポットとカップにお湯を注いで温めていたルタニは、ふと長く白い髪の先が揺れる気配に顔を上げました。
人間の世界の空の上、ふわふわと浮かぶ雲の間に隠すようにして浮かせた家の周りの空気が、さざ波のように揺れ立つのを感じて、ルタニは銀の糸で縫い取りの施されたターコイズ色のローブの上からかけていたエプロンを脱ぎました。
「そろそろご到着かな」
ルタニは虹色の瞳を細めると、長い足をゆったりと動かして台所を出、書斎を通り過ぎ、玄関ホールへと歩いて行きました。
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