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○月□日
その日、AはBの自宅を訪れていた。
Bに会うのも久しいが、自宅に招かれたのもいつだったかもう覚えていない。
「少し早いけど誕生日おめでとう。久しぶりに会えて嬉しいよ」
「ありがとう。僕も会えて嬉しいよ。それで、こんな朝早くにどうしたの? 君が家に招くなんて珍しいじゃないか」
Aの言葉にBはニコリと微笑む。
「キミに相談があってね」
「相談?」
「ああ、これを見てくれ」
Bはノートパソコンを開くと、よく見る検索画面をAに見せた。何だかわからずAが黙っていると、Bは楽しそうに話し始めた。
「この前職場の先輩から「結婚したら自由がなくなる」と聞いてね。だから今、やりたい事をとことんしようと思ったのさ」
「なるほど」とAはうなずく。
「しかし困った事に、何かを始めようにもなかなか見つからなくてね。それでキミに相談がしたいんだ」
「どんな相談なの? 君が興味を持ちそうな事を、僕が探してくればいいのかな」
「いやいや、そんな面倒な事はさせないよ」
「じゃぁ、何をすればいいの?」
「キミがやりたい事を教えて欲しいんだ」
「僕のやりたい事? それを教えてどうするの?」
「ボクがそれを叶えるのさ」
Aの口から「はぁ?」と腑抜けた声が落ちる。しかしBは気にする様子なく、笑顔のまま話を続けた。
「キミは今、仕事が忙しくてやりたい事があってもなかなかできない。そしてボクは今、やりたい事がなくて困ってる。だからボクが、キミのやりたい事を叶えるんだ。そうすればそれが、ボクのやりたい事になる。良い案だろ?」
「まぁ、そうかもしれないけれど……。君はそれでいいの?」
「もちろん。特別な誕生日を迎えるキミにピッタリのプレゼントだと思うしね」
「特別?」
首をかしげるAにBは驚いた顔をする。
「おいおい、独身最後の誕生日は特別だろう?」
「え? あぁ、そういうことか! それで朝から……」
眉を下げ「やれやれ」と言うBだが、その口元はどこか嬉しそうだ。
「でも、本当にいいの? その――」
不安を遮るように、BはAの頭を小突く。「何で?」とでもいいたげな、困惑した様子のAにBは優しく話す。
「ボクとキミの仲だぞ。今さらあれこれ気にするな」
その言葉にAは、今にも泣きそうな顔になったが唇をぐっと噛んで堪えた。
「……そうか、うん。そうだね。……でも、やりたい事が多すぎて、時間が足りないかもしれないね」
瞳を潤ませながらAがくすりと笑えば、Bはニカッと歯を見せる。
「その時は、次への楽しみにとっておけばいい」
「そうだね、それがいい」
AとBは笑い合うと、ノートパソコンの検索画面に目をやる。
「時間は有限だ。さぁ親友、何から始めようか?」
「そうだな……まずは――」
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