身代わり成仏、承ります

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 剥枯(はがれ)が「もう除霊は終わった」などとしどろもどろに一家に告げ、きっちり料金の交渉をしてから退散するまでの間、私はまだその見た目のままで、先輩と、かすかとともにリビングに突っ立っていた。一家はすっかり安心とはいかないまでも、いくらか安堵したようにそれぞれの自室に引き上げて、今は私たちだけだ。  先輩が一言、 「やりゃできんじゃん」 「迫力かぁ……確かにできましたけど」自分の血色の悪い手を見て、「これ、いつになったら戻るんでしょうね。嫌ですよ、こんな清潔感ないの」 「俺が最初に首回転させたときは三日間そのままだったな……」 「そんな……」 「あの」かすかが私たちの会話をおずおずとさえぎって、こちらに頭を下げた。「ありがとうございます」 「うん。よかった。あの様子だと彼女、もう来ないでしょ」  めでたしめでたし、と先輩が締めくくる前に、かすかが首を横に振る。 「でも、この家にはもう住めないんだとはっきり分かりました。私またさっきみたいに、何かを壊してしまうかもしれない。また別の霊媒師を呼ばれたら嫌だし、なによりこのご一家が気の毒で」 「行くあては?」 「ないけれど、落ち着けるところを探すほかないかと」  ふぅん、と先輩がこちらに視線をよこす。たぶん、私も同じことを考えている。 「そういえば」先輩がわざとらしく、思い出したようにかすかに向かって笑いかけた。「子どもの霊からの依頼っていうのもときどきあってねぇ、あんたみたいな。ちょうどそういう人材がほしかったところ」  うちに来ます? という先輩の問いに、かすかは意表を突かれたようだった。しばらく落ち着きなくきょろきょろとして、 「ほんとうにいいんですか……?」  不安げな声と同時に、キッチンの食器がカタカタと音を立てた。かすかはびくりとして気まずそうに先輩を見上げ、 「ポルターガイストは治すよう、努力しますので」  と答えて微笑んだ。
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