TRUE END

1/1
前へ
/5ページ
次へ

TRUE END

「え? トゥルーエンドって、どういうことですか?」 俺は慌てて先輩に問い質す。すると、先輩は人差し指を立てて言った。 「いいか、まだ、根本の謎が解決できていない。一つは何故、ヒロインが急に脱出ゲームを挑んできたのかということ。もう一つは何故、田中が『問題編』と『解答編』に分けたのかということだ」 「あ、確かに……」 そうだ、確かにそれは根本的な謎だ。それを解決しない限り、田中が解答編を渡すことはないように思えた。 「いいか、これには……」  N先輩が説明を始めようとしたところで、スマホの着信音が鳴った。どうやら、先輩のスマホらしい。ポケットから慌てて、スマホを取り出し電話に出た。 「もしもし。はい、あ、七条君。え、遅刻?」  どうやら、相手は七条らしい。ふと、壁の時計を見ると時刻は午後7時少し前になっていた。 「あ、しまった! いや、大丈夫だ。忘れてないさ、勿論。今、大学に居るから。急いで、そちらに行くから! また後でな!」  と慌てて電話を切って、立ち上がった。鞄を持ち、そのまま扉の方へ向かう。 「ちょっと、先輩! まだ、謎解きが終わってませんよ! 一体、どういうことなんですか?」  慌てて先輩を引き留めようとする俺に、N先輩は慌ただしく一言だけ、俺にメッセージを残して去っていった。 「もう一度、この原稿でおかしいと思う部分を探すんだ! こうなったのは、むしろ都合が良かった。これは俺が解くべき謎じゃない! 君が解くべき謎なんだよ!」 「おかしい所ったって……。さっぱり、分からないよ」  俺は再び頭を抱えた。先輩が去ってから、何十回と見返したが何も分からなかった。  すると、再び部室のドアがガチャリと開いた。 「あら。山本君。まだ、残ってたのね。お疲れ様」  黒髪ロングでモデルのような高身長と細いスタイルと巨乳。僕に選考の任務を命じた八神会長その人だった。 「あ、お疲れ様です。八神さんはどうして?」 「外から見たら、部室の明かりが点いていたから。誰かなって思って来てみたの。山本君って、私が思っていたよりも仕事熱心なのね」 「いや、そんな……」  八神さんに褒められて、俺は頬を紅くする。美人に褒められるのは、誰だって嬉しいだろう。  その時、ふと、八神さんはデスクの上の原稿用紙に目を移した。 「あら、これA5なのね。珍しいわね」  その言葉で、田中の原稿のことを言っているのだと分かる。そして、その原稿を見て、八神さんはクスリと笑った。 「どうしたんですか?」  俺の問いに八神さんは口元を緩めながら、答えた。 「いや、この前、読んだ推理小説の暗号のことを思い出してね。A5の用紙に暗号を送り付けて、その解読方法が『英語で読め』だったのよね。ダジャレかよって思わず探偵がツッコんじゃってね。あれは面白かったなぁ」  また、クスっと笑う八神会長。だが、俺は笑うどころではなかった。 「あっ!」  急に声を上げた僕に八神さんは奇妙なモノを見るような目を向ける。 「ど、どうしたの……?」  戸惑っている八神さんに、俺は 「あの、すみません! 急に用事が出来たので失礼します! 部室の鍵、よろしくお願いします!」 とだけ言って、A5の原稿用紙を引っ掴んで部室から矢のように飛び出した。  背後から、八神さんが何か叫んでいるような気もするが、今は気にしている余裕はない……。  そう、A5の原稿用紙など大きすぎて、普通の人は使わない。田中は普段、ワード派なのだから、そもそも使う必要はない。それをわざわざ使ったのは「英語」がヒントだったからだ。  そして、文章の中で気になった些細な点が二つ。一つは「game clear」の文字。勿論、個人差はあるが大体の場合は大文字で「GAME CLEAR」と書くのではないのか?  さらに、「鍵を持っているのは自分だと言いたい」の「自分」に傍点が付けてあったこと。文脈の流れを掴むと、「鍵を持っているのはヒロイン」と読めるが、この「鍵を持っているのは自分だ」という文章自体だと、この「自分」は主人公であるとも、ヒロインであるとも読み取れる。ここは京都。関西弁では「自分」という言葉を「自分自身」だけでなく「相手」にも使うから。  そして、主人公の名前は「(しん)」、ヒロインの名前は「(あい)」。「親愛」という文字が出来る。  「親愛」は英語にすると「DEAR」。これを小文字にすると「dear」。そして、俺は頭の中で小文字の「d」を「c」と「l」の二文字に分解した。 ――――――――――「clear」  頭の中で脱出ゲームのトゥルーエンドを賛美する文字がチカチカと輝いた。 そして、彼女の真意にも俺は気付いた。  俺の名前は「山本親一」  田中の名前は「田中愛」  親と愛の名前をくっつけて、「親愛」の文字を作る。その意味とは……。  俺は大教室に向かっていた。彼女と初めて出会った大教室。俺の目の前にある、この階段を登ればすぐだ!  階段を登ると、当然、大教室の電気は消えており、扉の鍵も閉まっていた。だが、その扉の前で彼女は待っていた。  彼女はゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。そして、俺に白い便箋にハートマークのシールが付いた手紙を手渡した。  俺は震える手で中の手紙を読む。 「脱出おめでとう。そして、私と付き合ってくれませんか」 俺は黙ってコクリと頷くと、彼女は顔を綻ばせた。 ―――脱出の終わりは、恋の始まり (true end 「脱出ゲーム始めました!」clear)
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加