脱出ゲーム始めました!(問題編)

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脱出ゲーム始めました!(問題編)

「じゃあ、今日の授業はここまで。僕は先に帰るから、残りたい人はまだ残っていてもいいよ」  先生がそう言うと、他の生徒が教室から次々と出て行った。残っているのは俺の他に数名。先生はそれを確認すると、教室から出て行った。 「あれ? (しん)。まだ教室に残ってるの?」  幼馴染の(あい)が話しかけてくる。ここはとある高校。この授業が終われば、あとは授業は無い。ちなみに、さっきまでは物理の授業だった。まぁ、まともに先生の話なんか聞いていなかったが……。 「あぁ、このゲームをクリアするまでは教室から出ないっていう自分ルールさ」  そして、俺は机の下からスマホを取り出して、彼女に見せた。画面には脱出ゲームの暗号が表示されている。脱出ゲームとは、プレイヤーがありとあらゆる密室に閉じ込められる状況から始まり、密室内に存在する様々な謎を解いたり、アイテムを使ったりして脱出するゲームのことだ。リアルで行っている脱出ゲームのイベントもあるが、俺はスマホアプリの方が好きだった。俺の楽しそうな様子とスマホの画面を見て、愛は呆れ顔で溜息をついた。 「まったく。さっきの授業中も先生に隠れて、それをやってたんでしょ。よくバレなかったわね……」  その言葉に俺はチッチッチと指を振った。 「こんな状況でバレる訳ないじゃないか。机の下だったら絶対にバレない!」 「まぁ、確かにね……」  彼女が再び溜息をつき、俺が見せた画面を食い入るように見つめた。 「最近、脱出ゲームばっかり遊んでるわね。それ、そんなに楽しいの?」 「楽しいに決まってるさ! 愛も一緒にやろうよ」 「それ、一人用じゃないの?」 「確かに、ゲーム自体は一人用だけど。クリアまで何時間かかったとか、どれだけヒントを見ずに謎を解けたかで勝負できるじゃん」 「ふーん……」  どうやら、彼女はあまり興味がなさそうだ。そして、少し苛立った口調で 「私、さっき先生に教室の管理を任されたの! あんたの脱出ゲーム好きと自分ルールは分かったけど、あたしは早く帰りたいの! さっさと出てってくれないかな?」 と言い放った。彼女の様子と吊り上がった目を見て、俺は逆らわない方が良いと判断する。 「ちょ……ちょっと待って! あと、この謎解きで終わるからさ! ……よし! ここをこうして……と。よし、クリアだ」  俺のスマホの画面には「game clear」の文字が赤く発光していた。実はさっきの授業中に9割方の謎解きは既に終わらせていたんだ。得意そうに画面見せつける俺に、彼女は三度目の溜息をついた。愛の機嫌が悪くなっているのが、はっきりと分かる。「これは早く帰らなきゃな……」と考えた俺は、次の彼女の言葉に驚かされた。 「よし! そんなに脱出ゲームが好きなら、あんたに脱出ゲームをさせてあげるわ! この教室から脱出してみなさい!」 「―――え?」  俺は唐突な彼女の挑戦に吃驚した。ニヤリと笑って、愛は言葉を続けた。 「さっきも言った通り、教室の管理はあたしに任されてるからね」  つまり、鍵を持っているのはだと言いたいのだろう。俺は教室の様子を思い浮かべた。俺の席は教室の一番後ろ。背後の壁には2020年6月のカレンダーや学校からの様々な連絡のポスターが画鋲で止められている。教室の前には当たり前のように黒板と教壇がある。そして、。  俺は少し考えた。「教室」から脱出する方法を。だが、考えるまでもないことに気が付いた。 ―――次の瞬間、俺は「教室」から脱出し、自分の家へと帰ってきた。 (問題編 終了)
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