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ホームレスに炊き出しする理由
テレビ番組のADは去り、腹もいっぱいになると、スーツケースに腰掛けながら炊き出しの長蛇の列をぼけっと眺める的場。
的場は失業者達に炊き出しを配るNPOの職員達の気が知れず、こんな疑問が湧いてくる。
(どうして彼らは失業者を支援するんだろう?)
すると、ホームレスと思われる老齢の男性が的場に話し掛けてくる。
「兄さん、タバコ持ってる?」
「いいえ」
「そうかい、あんた見ない顔だね」
「初めて来ましたから」
「じゃあ、まだ“家無し”になったばかりか」
(家無しって、凄い表現だな)
老人の足元に白い猫が一匹やって来る。老人は猫にキャットフードの細切れをあげて、猫はそれを食べる。的場はそれを見て、
「餌付けしているんですか?」
「友達になってくれないからな」
「なんでNPOは僕達なんかに炊き出ししてくれるんですかね?」
「猫と一緒だよ」
「えっ……」
老人はしゃがみ込んで、猫の頭をなでている。
「俺達はあいつらのペットなんだ。生きる。ただ、それだけで良い。そう思え」
「ペット……」
的場は、ホームセンターのペットコーナーに居て、誰からも相手にされない、年老いた犬になったのを想像する。そして、自分より若くて可愛い犬猫達が次々と売れていくのを横目で眺めるのだ。
(日本の新卒一括採用制度もそんな感じか)
「俺達“家無し”の人間様より、金持ちの家の犬や猫の方がよっぽど幸せだろうな」
老人の言葉を聞いて、的場は確信して言う。
「私は会社の働き蟻だったんじゃない。会社のペットだったんですね……」
「あんた、正社員だったな?」
老人に言われて、びっくりする的場。
「なんで分かったんです?」
老人は猫をなでながら、微笑んで言う。
「言葉遣いがちゃんと出来ている」
自嘲する的場。
「会社に居た20年間で非正規より出来るのが、そんなことか……」
老人は的場を励ます。
「あんたはまだ若い。会社のペット目指して、また頑張るんだな」
タバコを貰えないと知って、老人は間もなく立ち去った。
遠くを見つめる的場。
「ペット……ペットか」
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