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娘を追って……
夜、警察署から出て来る的場。スーツ姿のままだが、的場はパトカーで連行された後、警察署で警察官達に事情を説明させられた。逮捕や勾留まではされなかったが、しこたま怒られてしまった。
(あの警察官、絶対に俺より年下だった……なのに、あんな口の利き方しやがって!)
的場はスーツケースを転がして、夜の街を歩きながら考える。
会社員じゃなくなると、家を失い、アパートも借りられず、嫁に離婚されて、娘も出ていく。フリーターと思って自分より格下だとナメていた同級生は会社の経営者になっている。
的場は気付く。
(俺に信用があったんじゃない。会社が俺の信用を担保していたんだ。その会社がなくなれば自分は……)
的場は思い出す。
自分と同い年のプロ野球選手が球団から戦力外通告を受けるが、奮闘して再びプロ野球選手になろうとするドキュメンタリー番組を。あの時、戦力外通告を受けたプロ野球選手は言っていた。
「年齢なんて関係無い!」
あの時は、この言葉を聞いて勇気付けられていたのに、今は的場を痛め付ける。
(年齢は関係無い。だから、いくら年上だろうが偉くない)
的場は呟く。
「俺、生きてる意味あるのかな……?」
すると、道の反対側を男女が歩いているのを的場は見つける。男の顔は暗くてよく見えないが、ミニスカートに派手な衣装を着た若い女の顔は間違いなく誰だか分かった。
(硝子……!)
なんと自分の娘が、最近「パパ活」とでも言うのか、明らかに自分より年上の男相手に、売春婦まがいに男の片腕に絡みついて愛想笑いを振りまきながら歩いているではないか。
「硝子!」
的場は叫ぶが、二人には聞こえない。
的場はスーツケースを引っ張りながら、彼らを全速力で追いかける。歩いている二人に対して的場は走っているから距離は縮まっていくが、同じ道に辿り着いて追いつかんとする頃、二人は大きく横に曲がってビルの中に入って行った。
的場はビルの看板を見て絶望する。
ラブホテルだった。
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