再就職面接での再会

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再就職面接での再会

「的場さん、どうぞぉ」 「はい!」  スーツ姿の的場(まとば)克典(かつのり)(42)は、廊下のソファから立ち上がって返事し、応接室に入る。  応接室の中心にパイプ椅子が一脚置かれている。 「失礼します!」 「どうぞ、掛けて下さい」 「ありがとうございます」 立ち上がって出迎える面接官から、その椅子に着席を指示されたので的場は腰掛ける。 「よろしくお願いします」  面接官も着席する。  面接官は的場と同年代の40歳代くらい。的場と同じくスーツ姿。長テーブルに資料を広げて、パイプ椅子に着く。  的場はその男に見覚えがあったが、誰だか思い出せない。  しかし面接官の方から話しかけてきた。 「久しぶりだな、的場」  名前を呼んできた面接官の方を見ると、その男の顔の輪郭が的場の記憶を引き出す。 「小川(おがわ)君!?」 (やっぱり、少し老けたな) 「高校の同窓会以来だな」  その同窓会も14年前だ。  的場は思わぬ再会に微笑んだ。  一方、小川は的場の表情から鋭く彼の心を読んで言った。 「同級生なら、受からせてくれると思った?」 「えっ!?」  ギョッとする的場。  的場をよそに、小川は的場の履歴書を読みながら語る。 「大学を卒業した後、新卒で老舗アパレルのクラウンに就職して20年勤務。しかしクラウンが倒産したので就職活動中か……」 「小川君、どうしたんだ?」 小川は的場を睨みつけて言う。 「俺達の高校は進学校だった。皆は大学に進んだが、俺は受験に失敗して浪人を余儀なくされた。ところが生活が苦しくなって大学受験を諦めざるを得なくなった。就職を考えたが、浪人の俺は新卒の資格を失っていたから非正規雇用の職にしか就けなかった」  的場は冷や汗を掻く。 「そうだったんだ……」  小川は続ける。 「10年ぶりに同窓会に呼ばれていくと皆、正社員として就職していた。フリーターだった俺は、真面目に働いていないだの、定職に就けだの、散々バカにされた」 「いや、バカにしたつもりは……」  小川は机を右の拳で叩いた。 「言葉ってのは、言った側が意味決めんじゃねぇんだぞ!」  的場は絶句する。定職にも就かずチャランポランに過ごしていただけだと思っていた小川が、10年以上前の同窓会から自分への情念を恐ろしい怨恨に変えていた事実に。 (そんな昔のこと言われても……) 「42歳か。年寄りだな。お前なんか、もう正社員として雇ってくれる会社なんか1社も無ぇよ。諦めて、お前が俺に言った“チャランポランなフリーター”にでもなるんだな」 (言われっ放しでたまるか!)  自分を雇う気がないなら、遠慮は要らない。そう考えた的場も毅然として反論する。 「俺にも守るべき家族が居るんだ! 娘も大学に進んだばかりで大変な時期なんだ!」 「だから何だ?」 「だから何だって……」  的場は冷静になって痛感する。大学受験を貧困で諦めた小川にとって、自分の娘が大学に進むから経済的に大変なんだって悩みなど、小川にとっては戯言にしか聞こえないことを。 「てめぇが嫁とセックスしたくて子供作っただけだろ。んなもの社会が心配してやる義務なんか無いんだよ!」 「そんな言い方って……」 「お前はもっと酷い言い方で俺のことをバカにしたんだぞ! 人よりちょっと早く結婚したからって真面目に生きていると思い上がりやがって! 独身で悪かったな!」 (時間の無駄だ)  的場は立ち上がって、捨て台詞を吐く。 「ご縁が無かったな」  小川は微笑する。 「お前、自分は“真面目な働き蟻”って言ってたな」 「そんなこと言ったっけ?」 「フリーターの俺をキリギリスって言ったんだ」  10年以上前に行われた同窓会に未だ囚われている小川が、的場は段々哀れに思えて、 「それで今も非正規雇用の面接官かよ」  的場の心に“言ってやった!”と云う高揚感が生まれたが、その僅かな灯火はすぐに小川の言葉の前に掻き消される。 「俺はこの会社の経営者だぞ!」
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