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バスが右折できずにもうかれこれ八時間が経過している。陽はすっかり沈み、窓の外には腐った墨汁を撒き散らしたような夜が広がっていた。
「お疲れですか?」
サングラスをかけた人面犬が話しかけてきた。
「かなり疲れましたね。さすがに」
「運転手はなにをしているのでしょうか?」
「さあ、わかりません」
ため息をつき、時計を確認する。午後七時二七分。待ち合わせの時刻はとっくに過ぎていた。椅子に深く腰掛け、携帯を取り出す。着信が二十一件きていた。。
窓の外に目をやると歩道を野球部のユニフォームをきた学生達が菓子パン片手に歩いていた。
「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?」
「フランスパン」
「ブー。正解はパンダでした」
「パンダこの野郎」
後ろの方でカップルが楽しそうに騒いでいる。その声は次第に大きくなっていき、やがて獣の咆哮に変わり、振り返ると、二匹の猿が重なるように座席に寝転がっていた。
上にいる猿の尾が蛇のようにくねりながら下の猿の全身を這い回っている。
「うるさいですね」
人面犬が舌打ちをした。
「てか僕、人面犬って初めて見ましたよ」
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