1人が本棚に入れています
本棚に追加
「人面犬ってあれですよね。中華料理屋みたいですよね」
「どんな字を書くんですか?」
「仁義の仁に罷免の免、軒は普通の軒です」
「仁義を免れるってどういうことですか?」僕は思わず笑う。
「お前のことだよ」
人面犬が鋭い口調で言った。
「なんのことでしょう」
僕はしらばっくれる。人面犬は牙をむき出しにし、粘着質なよだれを垂らしている。
携帯が鳴った。舌打ちをしながら液晶に目をやる。知った名前があった。
僕は携帯を床に叩きつけた。猫の首をへし折った時と似た音がした。洞穴の底から聞こえてくるうめき声のような機械音が響く。
ポケットに手をやった。思わずため息をつく。やはりそうか。ゆるゆると引き上げるとそこには携帯電話が握られていた。床にあったはずのものはいつのまにか消えている。
「無限ループ」
人面犬が叫んだ。猿たちの咆哮が車内に響いている。
携帯を確認する。着信もメールも三件ずつ増えていた。
『次は西久保公園前、西久保公園前です。殿村耳鼻科へお越しのお客様はこちらが便利です。次は西久保公園前です』
最初のコメントを投稿しよう!