右折

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「人面犬ってあれですよね。中華料理屋みたいですよね」 「どんな字を書くんですか?」 「仁義の仁に罷免の免、軒は普通の軒です」 「仁義を免れるってどういうことですか?」僕は思わず笑う。 「お前のことだよ」  人面犬が鋭い口調で言った。 「なんのことでしょう」  僕はしらばっくれる。人面犬は牙をむき出しにし、粘着質なよだれを垂らしている。  携帯が鳴った。舌打ちをしながら液晶に目をやる。知った名前があった。  僕は携帯を床に叩きつけた。猫の首をへし折った時と似た音がした。洞穴の底から聞こえてくるうめき声のような機械音が響く。  ポケットに手をやった。思わずため息をつく。やはりそうか。ゆるゆると引き上げるとそこには携帯電話が握られていた。床にあったはずのものはいつのまにか消えている。 「無限ループ」  人面犬が叫んだ。猿たちの咆哮が車内に響いている。  携帯を確認する。着信もメールも三件ずつ増えていた。 『次は西久保公園前、西久保公園前です。殿村耳鼻科へお越しのお客様はこちらが便利です。次は西久保公園前です』
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