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頭上からはひっきりなしに鳥が羽ばたいているような音がしている。
「空飛ぶバスだ」
人面犬が叫ぶ。女が拍手をし、男はその様子を見ながらタバコを吸っている。
「あれ、お兄さん。ズボンが濡れてるよ」
女はそう言うと僕の股間を拭き始めた。「おい、やらしいこと考えるなよ」男が睨みつけてくる。
「考えませんよ」
「どうだか?」男が紫煙を吐く。
「大丈夫よ」女が言った。
「本当かよ」男が女を睨む。
「大丈夫よ」また女。「本当かよ?」と男。それを何度も繰り返し始めた。
携帯が鳴った。僕は大きくため息をつき、出ることを決意したが、
「車内での携帯電話の通話はご遠慮ください」
運転手がアナウンスしてきたので、すぐに切った。
「真面目だな」人面犬が小馬鹿にしたような顔をした。
「真面目ね」女が男に向かって同意を求めるように言った。
「真面目だ、真面目」男はまずそうな顔をして、煙を吐き出した。
「別に、社会人として当然でしょう」
「なんのお仕事をしていらっしゃるんですか?」女が訊ねてくる。
「家電の修理屋です」
「長いんですか?」
「高卒で入りましたので、もう七年になります」
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