右折

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「おい、そういえば俺らの家の電子レンジも壊れていただろう、あれを直してもらおう」  男がタバコを床に捨て、足で踏みつぶした。  その瞬間、バスは重力を失った。身体が浮かび上がり、天井に頭を打ち付けたかと思えば、床に激しく叩きつけられた。  身体の中で巨大なトマトを踏みつぶしたような音がした。口から赤い液体が飛び出る。それを人面犬が舐めていた。 「うん、このトマトジュース美味いな。無塩かな?」  僕は「なに言っているんですか?」と言おうとしたが声が出なかった。  携帯が鳴っている。人面犬が通話ボタンを勝手に押した。 『いつまで待たせる気ですか?』あいつの声が聞こえてくる。 「無理言うなよな」人面犬が苦笑し、通話を切った。 『次は西久保公園前、西久保公園前です』またアナウンスが流れた。 「おい、今、何時だ?」男が女に向かって言った。 「オヤジよ」  人面犬が大笑いする。 「それなら俺はエロオヤジだ」  男の声がしたかと思えば、やがてまた猿の鳴き声に変わっていき、それが大きくなっていくにつれて、僕の意識は遠のいていった。
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