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「お目覚めかな?」
仰向けの僕に人面犬が訊ねてきた。
「ここはどこですか?」
「どこって、バスの中だよ」
「素敵、村沢さん。やっぱりタバコ吸っている姿が一番カッコいい」
女が手を叩く。そのとなりで男はタバコを吹かしていた。どちらも毛むくじゃらで、半分くらい猿のままだった。
座席があった場所からは木が生えていて、カブトムシ、クワガタ、カナブンが樹液を吸っていた。
喉から虫の鳴き声がした。吐き出すと鈴虫が出てきた。喉からはまだ鳴き声がしている。
携帯が鳴った。
「車内での携帯電話の通話はご遠慮ください」アナウンスが流れる。
「うるせえ」
人面犬が一喝した。すると運転手がこちらにやってきた。顔がキジのキジ人間だった。
「車内での携帯電話の通話はご遠慮ください」
「うるせえ」
「車内での携帯電話の通話はご遠慮ください」
「うるせえ」
その様子を見ていた女が、肘で男をつついた。
「やめろよ」
「いいじゃない」
「やめろよ」
「いいじゃない」
「そこまで!」
人面犬が叫んだ。その瞬間、意思とは関係なく僕は立ち上がり、背が伸びていった。
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