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 キッチンを覗くと夕飯はビーフシチューだった。ビーフシチューは内側が銀色の青い鍋の中だ。ブロッコリーサラダがテーブルに乗っている。デミグラスソースの香りがキッチンに充満している。涼太はおやきを食べたんだが匂いで唾液腺が刺激された。 「ただいまー」  タイミングよくお父さんが帰って来た。お父さんは薬局で薬剤師をしている。夫婦そろって薬関係の仕事に就いているのは偶然じゃないだろう。お母さんがわざとドラッグストアで働いているのだ。共通の話題が少しでもほしいらしい。 「お父さん、お帰り。今日はビーフシチューみたいだよ」 「おっ、そうか。手を洗ってから着替えてくる」  お父さんは洗面所に行った。涼太はテーブルの椅子に腰かける。ブロッコリーサラダにはプチトマトが乗っていて色鮮やかだ。  テーブルは四人掛けだが、椅子を一つ追加して五人が座れるようになっている。家族全員で食卓を囲むためだ。お祖母ちゃんもお祖父ちゃんもまだ歯は丈夫で同じものが食べられる。 「涼太、さっき誰かと話をしてなかった?日曜日は出掛けるの?」 「ああ、明人だよ。一緒にショッピングに行くのは違うけどな」 「そうなの。じゃあついでにペットショップで猫の餌を買って来てくれない?来週の水曜日は買い物に行けるからちょっとでいいの」 「ああ、何時もの缶詰でいいの?」  アメリカンショートヘアのミミは高い猫だけあって高い缶詰を食べる。以前、ホームセンターで安い缶詰を買ってきたら匂いを嗅ぐだけで口に入れなかった。 「ええ、荷物になっちゃうかもしれないけどいい?」  猫缶くらいは苦じゃない。それにちょっとだけだ。涼太は「ああ」と頷いた。
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