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 それにしても真宙が砂浜にいたのは分からなかった。知らない顔だったし、それでなくても観光客が多いからだろう。 「気が付かなかった。僕は泳ぐことしか考えてないからね」  涼太は微笑んだ。そして話を続ける。 「真宙くんは一年生だろう。一年三組に同級生の妹がいるんだ。僕は一人っ子だから羨ましい。真宙くんは兄妹とかいるの?」 「大学生のお姉さんがいるんです。都内で一人暮らししてるんですよ。お姉さんは身体が丈夫なんです。僕が外れくじ引いちゃった」 「そうなの?健康そうに見えるね」 「いえ、夜になったら週に一回くらいは必ず熱が出るんです。夕方くらいからゾクゾクするんですよ。お医者さんは自律神経だって。それだけじゃなくて内臓も悪いんですけどね」  真宙はお腹の脇あたりを摩る。 「熱が出るんじゃ大変だね。体力が奪われるだろう」  涼太は同情した。 「お祖母ちゃんが面倒な子を引き取ったって、あの、僕のお父さんとお母さんいないんですよ」  真宙はそう言って眉を下げる。涼太はなんて言ったらいいのか分からない。言葉を見付けて無言になってしまうと真宙が「うふふ」と笑った。 「涼太先輩はやっぱり優しい。今言ったの、半分嘘ですよ。でも心配してくれてるのが分かります。僕、だから好きになったんです」 「えっ?それはどういう?」 「うふふ、困ってるー」 「だって好きだなんて言われたことがないから仕方ないだろう」 「えへへ、じゃあ、僕が一番だー。困ってる先輩って初めて見たよ。なんで好きか言ってもいいけど先輩のこの顔がもっと見たいなー」  なんだか凄く可愛い。涼太は「なんだよ、もったい付けんなよ」と言って真宙の脇をくすぐった。真宙はキャッキャウフフと跳ね上がる。お父さんとお母さんがいない理由は訊きだしづらかったが、屈託のない真宙の様子を見ていると重い理由ではないだろう。半分嘘と言っているし、そうであってほしい。
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