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「みてみて、つぐみ!あの人あの人!」
秋元里子は隣の友人にむかって興奮ぎみに言った。
里子はゆったりした白いシャツにミニスカートを合わせ、ふんだんに白い足を覗かせていた。髪はキレイに巻いてからざっくりと束ねられ、頸を覗かせている。化粧もバッチリ施され、アクセサリーはゴールド系で統一されていた。オシャレに敏感で都会的な雰囲気の女性だ。
一方、つぐみと呼ばれた友人は里子とは対照的にボーダーのシャツにチノパンといういでたちで、髪も短くショートにしている。色気とは無縁のボーイッシュで活発そうな女性だった。
つぐみが興奮する里子の指差す方に目をやると、なるほど、そこには確かにかなりのイケメンが立っていた。長身で小顔で足が長く、日本人離れしたスタイルだ。周りの人間と並べるとそこだけ合成写真のように浮いて見えるほどだった。遠目からでは顔がはっきりと見えないにもかかわらず、その男がちょっとそこら辺にはいないレベルの美形である事が感じとれた。
「あれは、ほんとにイケメンだね」
里子は恋愛体質で、高校の頃からやれあの人がカッコイイだの、イケメン見つけただのといちいち報告にくるのだが、やはり好みもあるのでつぐみにはあまりピンとこない事も多かった。しかしあの人はそういうものを超越している、誰もが認めるイケメンであった。
「でしょ!オープンキャンパスで見かけた時から、ずーっと忘れられなくて!めちゃくちゃカッコイイでしょ!こんなにすぐに見つかるなんて、やっぱり運命じゃないかな・・」
そりゃあんだけ目立つならすぐ見つかるだろうよ、とつぐみは思ったが、言わなかった。里子がこういう状態になると、どうせ何を言っても無駄だろうことを知っていた。
「いや〜、だいぶ激戦区だろうけどね〜・・」
小さく言ったが、やはり里子はうっとりと彼の方を見つめて聞いていない様子だった。やがて意を決した様に鏡をだして髪や化粧をチェックしてから、
「かわいい?」とつぐみに確認する。
「かわいいかわいい」
「ほんとに思ってんの?ほんとつぐみは恋愛に全然興味ないんだから。つぐみももう大学生なんだし、彼氏くらい作った方がいいよ」
「興味なくねーわ。彼氏できねーだけだわ」
あはは、とひと笑いしたあと、里子は真剣な面持ちで「よし!いくよ!」と気合を入れた。
その男に近づいていくと、周りの男性がビラを渡してきた。つぐみがそのビラを貰うとそこにはテニスサークルと書いてあったので、つぐみは少し驚いた。彼女は中高とテニス部に所属しており、大学でもテニスをやろうと思っていたからだ。
里子は自分の前に差し出されたビラを無視し、意中の彼の前まで行くと自分から「何のサークルですかー?」と声をかけた。どうやら周りには同じような目的の女性達が集まっており異様な雰囲気に包まれていたが、友人の恋愛モンスターが臆せず割って入っていったのを見て、(すげぇな、アイツ)とつぐみは呆れたのだった。
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