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 その晩、私がこっそり薬を入れておいた酒で晩酌をする夫に給仕していると、夫は最初の内、お前の酌じゃ美味いもんも不味くなるなぞといつものように愚痴を言っていたが、薬が効いて来たらしく頻りに目をこすっては私をまじまじと見るようになり、遂には食い入るように見るようになった。好い具合に酔ったお陰なのだろう、急にお前がえらく綺麗に見えるようになったと言い出した。 「私、実際に綺麗になったのよ。綺麗になる化粧法を身に着けたの」 「まさか、そんな化粧法があるものか」 「それがあるのよ。この通り綺麗になったじゃない」 「う~ん、しかし、晩酌する前は平生通り綺麗じゃなかった筈だが・・・」 「あなたに酌しながら化粧したのよ」 「酌する合間にか?」 「そう」 「う~ん、そうなのか、しかし、やっぱり信じられん。この酔いが醒めたら元のお前に見えるに決まってる・・・」  夫は合点が行かず、酔いを醒ますまいと酒を飲み続け、私を見ながら嗚呼、いい心持になって来たと呟いた切り寝入ってしまった。
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