猫になるのは楽じゃない

一日目

まずビックリしたのは、歩いてもほとんど音がしないことだ。
まあ猫だから当然なんだけど、自分が歩いても足音がしないことは新鮮すぎて初めは少し怖かった。
それと、この体は凄くバランスがとりやすくて、屋根や塀の上もすいすい歩ける。
初めはおっかなびっくりだったけど、慣れてみるとこれが面白い。
いつもなら屋根の上なんて歩けないしね。
でも慣れてみると……って、よく考えたら不思議だ。
今日寝る前までは普通の女の子だったのが、たった一晩で猫に慣れちゃうんだもん。
あ、でも家族が口をそろえて「頭がいい」を繰り返すから……普通より頭はいいのかな？
とにかくこんなに早く耐性がつくとは思わず、それも驚いたことの一つにしっかりとランクインした。
あと、夜だから猫が沢山いるかなーと期待したんだけど、思ったより見かけなかったのは残念。
その分人もいなかった。
まあ、いつもなら見られない夜の町が見られて、歩けたことだけでも感謝しよう……と思って家に帰ったんだけど、隣の家の屋根に上ってから狭い窓枠に飛び移る時は十五分ほどずっとしり込みをしていてなかなか帰れなかった。
……思い切って跳んだけどね。

こうして、私の『一晩だけ猫』生活は開始されたのだった。