アンハッピー・ピクニック

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アンハッピー・ピクニック

夜の山は僕らの想像以上に暗かった。 最初のほうはまだぽつぽつと外灯があったけど、ハイキングコースの入り口をこえるとそれもなくなり、月と星の明かりだけが続く真っ暗な山道になった。しかも月の光は木の影に遮られて、実際はほとんど見えない。たまに風にゆれる木のてっぺんからちらりちらりと見えるくらい。 暗闇のなか、僕は持ってきたライトで足元を照らしながら一歩一歩歩く。ナナオさんは僕のライトを頼りに、時々自分の携帯で足元を照らしながらそろそろと山道を登った。 最初はおどろおどろしさを感じた山道も、二人で歩けば心強い。ヒュルヒュルとふく風とガサガサする葉っぱの音、ジャーッという何かの虫の音、ホウというふくろうかなにかの音。僕らの靴音以外にも、夜の山は結構にぎやかで、僕らの足取りに色を添えた。 標識はところどころで見落としたけど、遠足できた時の記憶をつないでなんとかリカバーし、途中、もう帰ろうよとグチをいいつつ参道を見つけ、ハァハァと息を切らして石段を登ってなんとか神社についたころには23時を回っていた。 けれども、苦労した甲斐はあった。 荒い息を吐きながら神社の入り口から振り返ると、そこには今まで見たことがないような満天の星空が広がっていた。 北と東の方角では神津(こうづ)辻切(つじき)センターの宝石を散りばめたような夜景が煌々と輝き、その更に南東では弧を描くように暗い海を静かに明るい月が照らしている。その闇色の海を照り返す月光のたもとから夜空の中心に向けて、うっすらと天の川が立ち上っていた。はるか先には、僕が先月まで住んでいた三春夜(みはるや)市の明かりもかすみのようにわずかに見える。 遠足の時はこんなに山の上まで上がっていない。初めて見た夜の神津市の全景は、まるで絵のように幻想的で息をするのもはばかられ、僕とナナオさんはしばらく無言で夜景を眺めた。
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