アンハッピー・ピクニック

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来る前に調べた神社の歴史を思い出す。新谷坂(にやさか)神社はいつからかはわからないけど、かなり昔からこの辺りに鎮守社として存在していた。昔から新谷坂村の住民が守っていたようだ。明治時代の神社合祀(ごうし)で一度廃され、その後復祀されたが、その時にこの神社のいわれや伝承なんかは失われてしまったらしい。今は同じ神津市内の結構大きな神社の宮司さんが、ここの宮司を兼任している。 そんなことを考えていると、突然右手の茂みからガサガサっという音がした。ナナオさんかと思って振り返るけど誰もいない。 不思議に思って見回していると、足下から、ニャーォ、という小さな声がした。 目を落とすと、いつのまにか僕が座るのと同じ石段に、闇から()み出たようなしっとりとした黒色をまとう猫がちょこんと座っていた。黒猫は月明かりに照らされながら、金色の目で僕を見る。 なんとなく、なにしにきたのかって聞いてるのかな、と思った。 「友達の付き添いできたんだよ。もう少ししたら帰るから」 僕が返事をすると、黒猫はまたニャーォ、といった後、フィと僕から背を向けて、神社の奥に立ち去った。 そういえばナナオさんが木切れを探しにいってからずいぶんたつな。神社の奥をのぞき込むと、しんと静かに闇が降り積もっていた。 その時、急に強い風が吹き、新谷坂神社裏手の木々がゴゥと(うごめ)き、葉がざわめいた。 そして、神社の奥から、グルルルルゥ、という獣の低いうなり声が聞こえた。
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