アンハッピー・ピクニック

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「ナナオさん!?」 僕は急いで立ち上がる。 そういえばここは、野犬が出る。 「ナナオさん!? どこ!?」 ぼくは手探りでリュックから引き出した防犯スプレーをつかみ、ひと声さけんで暗い神社の奥へ駆け出す。 ナナオさんを探して名前を呼びながら茂みに飛び込む。 すると急に、僕の手をつかみ引っ張るものがあった。 「シッ。ボッチー静かに」 ナナオさんは僕を茂みの影に引き寄せ耳元で鋭く小さな声を出す。僕はその隣にしゃがみ込み、小さな声で応答する。 「どうしたの? 何かあった?」 ナナオさんはヒリヒリとした雰囲気で頬に汗を垂らし、立てた人差し指を口に当てたまま、静かに前方の闇をにらみつけて動かない。 僕にはなにも見えない。 「ナナオさん、何か……」 「黙って」 僕の声にかぶせるような鋭い声。 ナナオさんの緊張がうつり、思わず僕は肩を強張(こわば)らせる。心臓の音だけ大きく響く中、身動きもせずにたっぷり100を数えたくらいのとき。 目の前の闇から、グラルゥ、という小さな音がして、何かがガサゴソと茂みの奥へ去っていく音がした。 それからさらに5分ほどがたって、音が戻ってこないのを確認したナナオさんは、フゥ、と息をはいて糸が切れたように地面にへたり込んだ。初めて見たナナオさんの疲れ切った姿は、異常の大きさを思わせた。 「なにがあったの? 野犬がでた?」 僕はなるべくナナオさんを落ち着かせるように尋ねる。 あの犬の鳴き声のような音。でも座り込んだ僕の頭より高いところから聞こえた。多分1メートル半くらいの高さ。犬は木に登らない。何かがおかしい。風がざわめく。 ナナオさんは荒い息を整えながら言う。 「いや、あれは野犬じゃない、なんていうか……口だけ女?」 次話【大きな口の、小さな口だけ女】
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