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大きな口の、小さな口だけ女
「口だけ女?」
ちょっと変な声が出た。なんとなく、妖怪モッチにそんなのがいた気がする。目鼻がなくて口だけだけどかわいいの。
とりあえず、僕は震えるナナオさんに僕の上着をかけて、何が起きたのか尋ねる。
ナナオさんは絵馬の代わりになるものを探して、裏山の方に分けいったようだ。
ナナオさんの明かりは携帯だよりだから大丈夫だったのかと聞いたら、登り道の方なので後ろを振り向けば夜景が見えるだろうから、神社には帰れると思った、といっていた。それはさすがにうかつでは。ここの山の木はわりと高いから、ちょっと上るとわからなくなる気がするんだけど。チャレンジャーだな。
ともかく、ナナオさんはたぶん闇雲に探していたんだろうけど、しばらくしたらどこからか子どもの声が聞こえたらしい。子供はしくしく泣いていて、その声が木々の間に響いていたそうだ。
「なに考えてるんだよ、こんな時間に山に子供がいるとしたら幽霊とか妖怪でしょ?」
「だろ? そう思ったから声のする方に行ってみたんだ」
少し復活したのか、ナナオさんはなぜか腰に手を当てて得意そうにいう。普通と発想が逆じゃないかな。
「そんでさ、探してみると、ボロっちい着物きた8歳くらいの女の子がいてさぁ……それがすっごい悲しそうな声で泣いててさ」
ものすごくテンプレートな展開だ。
ナナオさんは思い出すように頭をかいて僕から目を逸らす。なんとなく、この後の展開が読めてきた。少し頭が痛くなる。ナナオさんは困ってる人を放っとけない人だ。
「思わず、どうしたの、って声かけちゃった。そしたら振り返って目があって、結構かわいい子だなって思ったら急にさぁ……」
ナナオさんは思い出して目元が少し泳ぎ、顔色が青くなる。
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