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「なんか急にメリって口裂け女みたいに口が耳まで裂けた。耳まで裂けたら今度は口が上下に大きく開いていって、ええと、なんていうかな、下唇が顎のほうに、上唇が頭の方にゴリゴリ開いてってさ、メリメリいいながら最後にはべろんって、頭の皮が全部めくれて頭全体がひっくり返した口の中みたいになった。それから、ゴム手袋をひっくり返したときみたいにどんどん口の中の部分が外に広がって腰くらいまでめくれて垂れ下がって」
「最後には、なんていうんだろ、直径1メートルくらいのてらてらした口の中みたいな皮のてっぺんに穴が開いててそっから太い舌がでてて、ふちの外周にぐるっと歯が並んでて、それから手とか足とかが生えてる化け物になった」
背筋を悪寒が駆け上がる。僕はナナオさんの表現におののく。そんなに具体的に聞きたくなかった。口だけ女、恐ろしすぎる。そんなもの直視したら耐えられない気がする。
「よくそれで逃げられたね」
「うん、一目散に逃げ出したよ。口だけ女はいろいろゴツゴツぶつかりながら追いかけてきたけどあんまり足は早くなかったみたい。口だけだと目がないから走りづらいのかも」
「でもこの辺でこけちゃって。もう駄目かと思ったら、10メートルくらい離れたところで口だけ女は止まってて、こっちに入ってこなかった。ボッチーが突っ込んでいきそうだったから慌てて止めた」
危なかった。危機一髪だ。僕の額からも冷たい汗が流れる。
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