109人が本棚に入れています
本棚に追加
ナナオさんは、とてもいいことを思いついた、というようにニカッと笑った。
僕はナナオさんを止められず、結局、ギリギリ安全なところから、近づかずに呼びかけよう、ということに決定された。
僕らはおそるおそる、神社と裏手の森を分ける冷たい石畳に陣取る。
確かに、この石畳の先の森は、神社の神聖な雰囲気とは無縁で、何かが潜んでいるようなおどろおどろしい雰囲気を秘めていた。
ナナオさんは意を決して、よしっと小さく握り拳を固めたあと、作戦を開始した。
「おおーい、さっきの子、いまちょっとお話できるかな」
驚くほど、普通の呼びかけ。
「おーい、聞こえてたら返事をしてー」
そのまま、20分くらい、何度か大声で呼びかけて、無理じゃないかな、と思った時だった。
正面の暗がりから、カサカサっと小さな音がした。風や木の音とは違う、何か生き物が動いたような音。
僕らはごくりと唾を飲み込む。ナナオさんは先程と違う、少し緊張した声でもう一度呼びかけた。
「……えっと、さっきの子かな?」
しばらくしてから、闇の向こうから小さな声がする。
「……あの……怒ってない?」
確かに女の子のような、鈴が転がるような声だった。少し戸惑っているような。ナナオさんはうなり声じゃなくてほっと胸をなでおろす。この女の子の声で泣いてたら、確かにナナオさんじゃなくても様子を見にいくかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!