大きな口の、小さな口だけ女

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ナナオさんは、とてもいいことを思いついた、というようにニカッと笑った。 僕はナナオさんを止められず、結局、ギリギリ安全なところから、近づかずに呼びかけよう、ということに決定された。 僕らはおそるおそる、神社と裏手の森を分ける冷たい石畳に陣取る。 確かに、この石畳の先の森は、神社の神聖な雰囲気とは無縁で、何かが潜んでいるようなおどろおどろしい雰囲気を秘めていた。 ナナオさんは意を決して、よしっと小さく握り拳を固めたあと、作戦を開始した。 「おおーい、さっきの子、いまちょっとお話できるかな」 驚くほど、普通の呼びかけ。 「おーい、聞こえてたら返事をしてー」 そのまま、20分くらい、何度か大声で呼びかけて、無理じゃないかな、と思った時だった。 正面の暗がりから、カサカサっと小さな音がした。風や木の音とは違う、何か生き物が動いたような音。 僕らはごくりと唾を飲み込む。ナナオさんは先程と違う、少し緊張した声でもう一度呼びかけた。 「……えっと、さっきの子かな?」 しばらくしてから、闇の向こうから小さな声がする。 「……あの……怒ってない?」 確かに女の子のような、鈴が転がるような声だった。少し戸惑っているような。ナナオさんはうなり声じゃなくてほっと胸をなでおろす。この女の子の声で泣いてたら、確かにナナオさんじゃなくても様子を見にいくかもしれない。
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