大きな口の、小さな口だけ女

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「……私、お母さんを探してるの。お母さんはここのお山に閉じ込められててでて来れないの、私、お母さんに会いたい……」 少し先の闇は、しくしく泣き始めた。それは、心を締め付けるような悲しそうな声。やっと、ナナオさんか気にかける理由が少しだけわかった。 ナナオさんは眉を寄せて困った顔をしている。 「お母さん、か……それってここの封印を解けば会えるのかな」 「ちょっとナナオさん!」 僕は小さな声でナナオさんの肩を引く。 「あの子がかわいそうなのはわかるけど、あの子のお母さんがあの子みたいな生き物だったとしたら、たくさんの人が犠牲になると思う。僕らも無事じゃすまないかもしれない。やめたほうがいいよ」 ナナオさんは、でも、といって目を泳がせる。その目は、だって可哀想じゃないか、と主張している。 「私はそっちのほうに行けないから、どうしていいかわからないの」 闇から小さな声がする。 ナナオさんは、うう、と小さくうめいて、僕の耳元でささやく。
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