地神の暇つぶし

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封印を破ろうとする人間が現れる。 ふたである我を無視してこの山の脇を掘り、封印を破ろうとしたのだ。我はその人間を観察したが、怪異をまき散らそうとしている様子でもなく、いぶかしく思われた。だが、我はしょせんふたにすぎぬ。ふた以外のところから封印を開けようとするのであれば、それはそれで仕方がない。我の関することではないし、放置した。 すると案の定、封印の横っ腹にほんの小さな穴が開き、怪異の内の1つが封印をするりと抜け出した。一旦(いったん)抜け出した怪異は、外に出した者でなければ封印はできぬ。理屈はよくわからぬが、解放した者が開けた穴から出るゆえなのか、解放した者と怪異の間に(えにし)ができるようだ。ようは解放した者が穴の鍵を持つのだ。解放した者が求めぬ限り、再び同じ穴に押し込め閉じることは難しい。 その人間が封印したいというのであれば手伝おうと思って見ていたが、その怪異は、あっという間にその人間を食らいつくした。これではもう我にはどうしようもない。逃げ出した怪異は我には封印できぬ。捨て置くことにした。 我は山の横っ腹に開かれた新しい穴をどうするか少し考えたが、彼の方の願いを思い出し、とりあえずその穴はふさいでおくことにした。 それからしばらくの後、また山を崩そうという人間が現れた。我はまた、このまま人間が穴をあけて怪異を解放しようというのであればかまわぬと思い見ていたが、今度は以前に逃げ出した怪異が人間たちを襲い始めた。どうやら怪異はどこかに去ったのではなく、山の裾あたりに住みついていたらしい。 怪異と人間たちの攻防はしばらく続いたが、いつしか人間たちは退いたようだ。攻防といっても、どうやら怪異の力は弱く、たまたま1人になった人間や無人の資材を襲っているだけのようであったが。 その後も山にはぽつりぽつりと人間が立入り、家や道路というものを作っていった。これらは山の表面を少し削る程度であったから、封印には問題ない。逃げた怪異は人間が立ち入らぬ間は山の獣を(くら)っているようであった。
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