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我は奇妙に思う。
この封印は人間を厄災から守るためのものだ。なぜわざわざ壊そうとするのだろうか。それとも、いつのまにか我の役目は人間にとって意味のないものになってしまったのだろうか。
とはいえ、我の役目は封印のふたである。人間の意図など関係ない。封印がある限りこの上に横たわっているだけだ。役目に不満はないが、少しだけ、この封印は彼の方が守ろうとした人間達にとって不要なものとなったのか、と思う。それであれば、むしろ求められれば明け渡した方がよいのだろうか、そのようにも思われた。そのほうが、彼の方の意思にも沿うのかもしれぬ。
我は人間の世を観察した。
もともとこの山に登る人間は多い。古くは薪や山の鳥獣を求めて人間は立入っていたし、最近では山裾の方が開かれて人間が歩き回っている。
我は仮初の姿で山や街を巡った。人間の世は昔と異なり、驚くほど怪異は窮屈に押し込められていた。
なるほどこれであれば封印は要らぬのかもしれぬ。
とはいえ、我の役目は封印のふただ。役目がある限りは全うしよう。
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