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その月の明るい夜、参道を登る者が2人いた。
1人は騒がしく、もう1人は大人しそうだ。大人しそうな方はどことなく、彼の方に少しだけ雰囲気が似ていた。そういう者は町にも稀にいるが、ここまで登ってくる者は珍しい。
我は気まぐれに、仮初の姿でその者の前に姿を現す。
「ここでなにをしておる。ここは危ない」
この山には逃げ出した怪異が潜んでおる。あまり長居をするべきではない。言葉が通じぬことは知っておったが、我は気まぐれにそう忠告した。
その者はしばらく我を見つめ、
「友達の付き添いできたんだよ。もう少ししたら帰るから」
と優しげな声で述べた。まさか正しく返答が返ってくると思わなかったので少し驚いた。偶然とはいえ、応答が合致するのは何百年ぶりだろう。
「ならばよい。速く立ち去られよ」
どことなく、我は彼の方とまた話ができたような心持で、珍しく、少しよい気分になった。
そのとき、社の裏手から逃げ出した怪異の気配を感じた。あれがこの辺りまで来ることは珍しい。
おそらく山裾から2人について来たのであろう。2人であったため襲われなかったが、いまは別れているので騒がしい方を襲いに行ったのやもしれぬ。
我はちらりと大人しい方を見る。社の内側のここにいる限りは大丈夫であろう。
こやつらが怪異に食われようと食われまいと、我の関与することではないが、我は怪異を封印するふたである。我に封印はできぬとはいえ、役目がら、一応は様子を見にいくことにした。
次話【口だけ女と夜食をともに】
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