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我は少し崩れかけた社の瓦の上から2人の人間と1つの怪異の会話を聞いていた。
なんと面白き者どもよ。
我がこれほど驚いたのは初めてかも知れぬ。
よもや自らを襲った怪異に情けをかけるとは。
それほど強い怪異ではないにせよ、あの者共に比べれば圧倒的だ。封印の守りがなければ、以前に封印を解いた人間と同じくあっという間に食われていただろう。
彼の方も慈悲深い方ではあったが、怪異にまで慈悲を向けることはなかった。
それに……思い返してみれば、我は怪異をとらえ封印はするものの、怪異自身に目を向けることはなかった。怪異に話しかけるなど、考えたこともなかったのだ。
今の世はこういうものなのだろうか? 彼の者らは封印を解放するといっていたが、もしそうなら解放したほうが良いのであろうか? しかし、我はただの封印のふたである。判断する役目は持たぬ。今しばし、見守ろう。
次話【真っ暗な、井戸の中】
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