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あれは4月当初のクラスのざわざわした自己紹介の時間。校庭の桜もまだ鮮やかなピンク色をまとっていた頃。
「東矢一人です。東の矢に一人と書きます。隣の三春夜市から・・・」
「一人? ボッチ?」
静かな教室に響くナナオさんのつぶやきに、空気が凍り付いた。
十秒ほど無音の世界が過ぎた後、ナナオさんはきょろきょろと周りを見回して、
「あ、ごめんごめん。悪気ない」
と手を軽く擦り合わせながら謝った。
ナナオさん自体は本当に悪気はなかったらしい。でも、出合頭の「ボッチ」発言は、同級生にとってもどう対処していいかわかない問題で、その結果、同級生には微妙な距離を取られてしまった。なんという不意打ち。
そんな中で僕に声をかけてきてくれたのは、そもそもの発端のナナオさん。ナナオさんは、地元出身の人で、なんていうか、いわゆるギャルっぽい人だ。明るい金色の髪を頭の上にくるりと結い上げて、制服も肩を出して着崩している人。新谷坂高校は制服はあるけど、服装規定はかなりゆるい。
クラスでは『ナナ』と呼ばれていて、パッと見はちょっと怖かったけど、とても面倒見がいい人だ。さっきの『ボッチ』みたいに何の気なしの発言がちょくちょく自由に人に刺さってるけど、周りを明るい雰囲気にさせる人。僕には圧倒的に欠けてるスキル。
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