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それからと言うもの、私はこの傘を愛用するようになった。
外側から見れば普通の傘だ。
晴雨兼用だから、いつ使っていてもおかしくはない。
使っているうちに、だんだんと規則性がわかってくるようになった。
家の中で開くと、だいたいの確率で何もいないことが多い。
しかし、たまにカラスのような鳥が、傘の内側を飛んでいることがある。
そして、なによりも嬉しかったのが、外で普通に使う時のことだ。
それは一見白いシミだが、雨の日も晴れの日も、絶対に視界に入ってくれる。
飛行機だ。
その飛行機は日によって出現する場所や大きさは違うが、使うたびにどこかしらにいてくれた。
これは私にとって本当にラッキーなことだった。
視界の隅に飛行機を捉えていたい人がこの世にどれだけいるだろうか。
そのニーズをばっちり叶えてくれる、私にぴったりの傘だと思った。
今日はどれくらいの大きさなんだろう。
どこを飛んでくれるんだろう。
味気なかった毎日の通勤がこんなに楽しくなるなんて。
私はだんだんと、傘を持たない日が少なくなっていった。
どこに行くにも傘をさし、視界の隅に飛行機を連れている。
淡いクリーム色だった外側はだんだんと黄ばんでいき、骨組みのところどころには錆が出るようになった。
それでも、私はこの傘を毎日のように使っていた。
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