どこ?

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どこ?

 意識の波が静かに押し寄せてきた。 「ラベンダーの香りが……」  微かに届く香りと瞼の裏側までさす優しげな光。  つられて開けた眼の先には、「あ、おはようございます!」見知らぬ男がみおろしていた。  薄靄がかってはいるけれど、柔らかなひかりで満たされたこの場所は、どうやらお花畑のようだ。  まるでわたしはお姫様のようだ。花々に囲まれて眠りについたお姫様。素敵な王子様の優しいキスで目覚めて。いや、違う。見える顔はあまりにもチャラい。顔もそうだが、声もチャラい。どう考えてもこの場所には似つかわしくないだろう。  急に現実に引き戻されて、わたしは勢いよく身体を起こした。 「ねえ、ちょっと。ここはどこ?」  わたしの問を引き取るように、「続くのは、わたしはだれ? それとも、あなたはだれ? っすかねえ」と返してくる。 「えーと、ごめん、殴っていい?」  チャラ男は大袈裟に両手を振りながら、冗談ですよとニカッと笑う。その仕草が一々ムカつくのはアイツに似ているからかもしれない。 「早く答えて」  濃紺のストライプで、細身のダブルのスーツを着こなしたこの男。二十代後半だろうか? 黒髪をふんわりと後ろに流して、立ち姿もピシッとしているのに、醸し出す雰囲気はチャラい。なんかアンバランスだ。きっと、その張り付いた笑顔が嘘くさいからだ。そうだ。そうに違いない。 「あれ? なんか、すげえネガティブに見られてるような気がするんすけど」 「うん。その通り」  わたしは正直者だから、そう答えた。 「えー、それはショックだなあ。別に怪しいもんじゃないっすよ」  怪しいやつは必ずそう言う。 「んで、ここはどこなの? さっさと答える」  記憶をたどっても、拐われた覚えはない。さっきまで行きつけのカフェでコーヒー飲んでたし。それに、こんな男にはわたしを拐うなんて無理だろう。禁断の一子相伝武術を身につけたわたしは、こんな男にどうこうできるわけがない。それは冗談として、衣服の乱れや身体に違和感もない。でも、眠らされたとしたら……。 「そうっすね。単刀直入に言います。佐藤茜さん、あなたはお亡くなりになりました」 「へえ、そう。全然面白くないんだけど」 「いや、いや、ホントですって」  男は急に真顔になり、そして、区切るようにゆっくりともう一度繰り返した。 「あなたはお亡くなりになりました」
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