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森の生活、はじめました 2
「あ、こんにちは、リスさん。シカさんも、いっしょなのね」
リスとシカの目線の先、大きな木の木陰にいたのは、かすみ、という女の子だった。背は小さくて体も細く、髪は整えられていなくて少しボサボサの、それでも何人かの男の子には恋心をもたれているであろう、可愛らしい女の子。最近になって森に来た、「新参者」だった。
リスはタタタ、と軽快に駆けよると、かすみと会話をはじめた。シカが、その後をゆっくりとついてきた。
「今日はね、ドングリを拾っていたよ。たくさん見つけたんだ。ほら、このとおり」
そう言って、リスは口のなかに手を入れ、自身の成果を誇らしげにかかげる。それにかすみが驚いたような様子を見せたので、リスはまんざらでもない顔をし、次から次へとドングリをとりだしていった。
しかし、調子に乗ったので、手に乗らなかったドングリが何個か地面へと落ちてしまう。それをあわてて拾おうとするリスに「おちついて」とかすみが声をかけると、シカは笑って、「リスは働き者だねえ。まったく、えらいねえ」と言った。
シカにしてみれば、嫌味のない発言だったのだが、リスは少しだけムッとした。そして「人を働き者とほめてくれる、きみは今日、なにをしてたのさ?」とたずねた。シカは言った。
「え? うーん、べつになんにも。ごはんを食べて、ねて、またごはんを食べて、ねた。トイレもした。そんなところ」
「きみはまったく、いつでものんびり屋だなあ!」そんなシカに、リスがあきれたように言った。
「ねえ、ぼくはこのようにドングリを集めて、朝のうちに巣穴の掃除もすませたよ。もう、冬は近いんだ。ぼやぼやしてると、大変なことになる。きみも、少しはキビキビと動きなよ」
「うーん、でも、ぼくは、きみのように巣にこもらないからなあ。冬もやることは変わらなくて、食べて、ねて、食べて、ねるよ。トイレもするよ。それは、冬も一緒だからねえ」
「いや、まあ、そうだけど……しかし、それにしてもきみは、のんびりがすぎるな。 人生は短いんだ、あっという間に過ぎていく。あくびしてる間に、終わっちゃうかもしれないぞ!…………」
そんなふたりの会話を、かすみは内心ほほえましく眺めていた。
正反対のように見えても、実は仲良しで友だち。
ふたりの関係性は、森に来て間もない(本当に間もない)かすみにもよくわかっていた。
――わたしも、ふたりともっと仲良くなれたらいいな。
リスとシカを見ながら、かすみは本心からそう思う。
「新参者」から森の一員になりたいと、心から考えていた。
森は秋を迎え、次第に冬がきて、春まで景色は雪に包まれる。
かすみの森での生活は、はじまったばかりだった。
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