森の生活、はじめました 1

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森の生活、はじめました 1

森に、秋がやってきた。緑色だった木々の葉も赤かったり、黄色かったりとあざやかに色を変えはじめ、それぞれが秋らしく装いを新たにしていた。 葉が落ち、おなじく黄色と赤色の色味にあふれた地面にはドングリやらクルミやらの動物の喜びそうな木の実がぽつぽつと見られていて、中身の食べられたクルミもそこかしこに転がっていた。 落下した実は格好のごちそうとなるはずで、動物たちにとっては一安心、冬への準備もはかどるといった、そんな具合なのだった。 そうして、今まさに、一匹のリスがドングリを見つけた。 ふさふさのしっぽをたずさえて葉っぱのじゅうたんの上をサッサと歩き、目当てのドングリのそばに来るなり、ニヤリと笑って言った。 「しめしめ、立派なのが、何個も落ちてるぞ」 あたりを用心深く見わたすと、リスは足元のドングリを拾い、すばやく口のなかに入れた。まさに早業といえる動きだった。ほお袋にはすでにいくつかのドングリが含まれていて、容量としてはそれが最後の一個、といった様子。食糧のための遠征は、リスにとって満足のいくものだった。 リスは、ほおをふくらませると、ふたたびあたりを警戒した後に走りだした。踏みしめた葉っぱが音を立てるもそれは本当にかすかで、他の動物にリスの存在を知らせるには至らないものだった。 森は静かで、ほどよい明るさがあり、大型の肉食動物の姿も(それほど)見当たらない。また、人里はなれた場所であるので、靴の跡や人工物なども(それほど)目立つことはなかった。 そのように、リスが冬を越すための食糧を抱えつつ駆けていると、道中で友だちのシカと顔を合わせた。「あれ、リス、なにしてるの~?」とシカはのんびりした声で言い、それにリスは「ああ、ドングリを集めていたんだよ」と返した。(ほお袋がいっぱいでも話せるのはリスの自慢できる特技だった) その後、少し話してみると、ふたりの行き先はどうやらおなじで、会いたい人も一緒だったので、リスとシカは足並みをそろえ、仲良くその場所へと向かうことにした。 地面に落ちた枯れ葉の上を行き、晴れた空を眺めつつ、(途中でリスは疲れてシカの背中に乗った)シカにとってはさほどでもない距離を歩いて、ふたりは目的地へと到着した。 シカの背中からピョンと飛び降り、小粒の鼻をヒクヒクとひくつかせながら、リスがキョロキョロと周囲を確認する。 そうして、大きな木のあたりで目的の「友だち」を見つけたとき、小さな体で手を振り、こう明るく声をかけた。 「──やあ、かすみ! 昨日ぶりだねえ!」
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