プロローグ

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

プロローグ

 夏の特別番組のテーマソングを、繰り返し聴いていた。家族にうるさいよとよく怒られるくらい、飽きもせずに何度も何度も何度も。オレ達の時はどんな歌だろう。どのアーティストが歌うんだろう。わくわくしてた。  テレビの中の、黒土のグラウンドと緑の芝。  揺れるメガホン。応援がこだまするスタンド。  灼けつく光と影。  旗が、風になびく。  汗と革の匂いが脳裏に蘇る。  空にサイレン。  胸が、熱くなる。 ――プレイボール!  力の全てを尽くして、あそこを目指せ!  一昨年は記念の100回大会。  1年生は皆、応援席でメガホンを振り振り、練習した応援を、踊って歌って目一杯叫んだ。1人1人に攻撃の時の曲があって、アレ格好いい!コレ先輩に合ってんな〜、オレは何にしようか、なんてニヤニヤと密かに考えていた。  昨年は101回大会。  俺は控えピッチャーとして登録された。投球練習はするものの、一度も試合で投げることはなかった。先輩たちのほか、同級生2人がレギュラーで出場した。強豪校に当たって地方大会3回戦で敗退した。  そして、オレたちが3年生の2020年、夏。  第102回全国高等学校野球選手権大会は、COVID-19――新型コロナウィルス感染症のため中止になった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!