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辛い思い出
ピピピピピピピピピピピ
目覚まし時計がなった。そうだった……。寝ていたんだ。
今は朝の六時半。普通なら明るいはずなのに、夜みたいに真っ暗だ。
それもそのはずだ。今はいつもの横浜じゃない。ゾンビが徘徊して生きている者を狙う。まさに阿鼻叫喚の惨劇が外では繰り広げられている。
ー大切な人を守るー
そう心に誓ってから早、1日。本当にわたしなんかに出来るのだろうか。
里沙と奈央が言ってくれた言葉……
ーみんな明日美ちゃんを信じているんだよー
その言葉が頭の中で響く。みんな信じてくれているんだ。わたしもみんなを信じて頑張らなきゃ……。
朝の支度を終わらせて、ニュースで状況を確認していると、ゴンゴンと窓が叩かれた。
恐る恐る見てみると、ポニーテールの少女が立っていた。友里亜さんだ。
「お願い!!今すぐ来て!!」
彼女はそういうと大鎌を渡してきた。わたしは親にばれないようにこっそりと外を出た。
わたしはみんなの安否が心配になって、
「みんな無事ですか?」
「えぇ。無事よ。」
良かった……。わたしのせいで誰か死んだりしたら嫌だ。
「とにかく、ゾンビを倒せって指令が出たの。」
指令か。それなら仕方ない。
「でも、祐太達がいないと……。」
「そのことだけど、明日美ちゃんがなんとかくれない?」
友里亜さんがとんでもないお願いをしてきた。
「祐太だってそうだけど、義経達に命令するのはちょっと……。いつも助けられてばっかりのわたしがゾンビを倒してって言うのは生意気だって思われるかも……。」
「大丈夫よ。明日美ちゃんのお願いなら彼らでも素直に聞いてくれるわよ。」
そうかなぁ?逆に図々しいと思われそうだけど。
「明日美ちゃんは妹みたいに可愛いらしいからね。兄が妹の頼みを聞かない訳がないわよ。」
妹って……。わたしのことを散々からかいまくってるのに!?
とにかく彼らを呼ぼう。友里亜さんは武器のロングソードをうちは大鎌を持ってゾンビの溢れる道へと出た。
一気に緊張感が高まる。すると、奇声をあげながら一体のゾンビがこちらに向かってくる。女子高生のゾンビだ。腐敗して肌が変色してしまっている……。
ーこれはー人じゃない、人の姿を借りた化け物だ……。だから……。
そう自分に言い聞かせながら、大鎌を振るう。
ーザクッー肉と骨が切れる音がした。ゾンビの脚を切り落とした。
しかし、一度獲物と決めたもの……。ゾンビは生き血と新鮮な肉と脳ミソをてにいれるまで諦めない。意志すら感じさせない、無感情な奴らはこの上ないほどに残忍で人を生きたまま喰らうおぞましい集団だ。
女子高生のゾンビは失った脚など気にせず、腕を脚みたいに使って近づいてくる。
「嘘でしょ?なんで……。脚を切り落としたんだよ……なのに……。」
なんで?そう繰り返すだけの明日美。
「諦めないの。奴らは……。人を喰らうまで。あたしだってゾンビが憎い。あのとき以来……。だから、だから、せめてもの報いに、ゾンビを破滅してやるの。あたしの愛する者を殺した罪は消えないからね……。」
友里亜は悲しそうに呟くと、ロングソードをゾンビの脳天に振り落とした。
ーグチャッー不快な音が聞こえた。ゾンビは二度と動かなくなった。ゾンビの頭はぱっくり切れて、中には潰れた脳ミソが見えている。友里亜さんはゾンビを見つめながら、
「あんたなんかに好きにはさせない、もう、誰も悲しませなくない、自分も悲しみたくはないの……。あたしは守りたい者を守る。そして、あんたから世界を救うの……。」
友里亜からは、ゾンビに対する激しい恨みが感じられた。それと同時に悲しさも感じられた。
「友里亜……さ……ん?」
すると友里亜は明日美に向き直り、
「さ、行こうか?明日美ちゃん……。」
「はい……。」
(ごめんね、ごめんなさい……。明日美ちゃん、みんな、ごめんなさい……。我儘を言ってしまってごめんなさい……。あなたが巻き込まれないか、あのときみたいになってしまわないか……。あなたたちに一緒に戦ってなんて言わなきゃ良かったかもしれない……)
その頃、友里亜は思い出していたのだ。自分の辛く悲しい過去を、まだ数年前、中学生の頃のことを、その頃、世界はゾンビで溢れていた。
ーあたしらは頑張った……。でも、でも、早苗ちゃん、友恵ちゃん、颯太君……お母さん……学校のみんな……。なんで?なんで?
どうして?……。
あたしは親友の早苗ちゃん、友恵ちゃん、幼馴染みの颯太君と大好きなお母さんを思い出していた。
彼と彼女らの最期は辛かった、苦しかっただろう。痛かったかもしれない……。
ずっと思っていた。なんで自分だけ助かったのか、なんでみんな死んだのか。死ぬのは自分だけで良かったのにと。
だから、明日美ちゃん達には死なないでほしい。
最高戦力の義経や季長、継信、忠信、伊勢さんだって不死身じゃない。奴らに噛まれたら間違いなく死ぬー
奈央ちゃんに里沙ちゃん、祐太君に一翔君だって奴らに噛まれたら間違いなく死ぬ。
彼ら彼女らはもうあたしの大事な戦友なのだ。死んだら悲しい。あたしの大切な人が死んだように、自分は無力でなにもできなかったように、でも、彼ら彼女らは絶対に守るから……。
そう思うだけで涙がこみ上げてきた。
「友里亜さん?」
心配そうにしてる明日美に
「ちょっと思い出していただけなの……。」
あれは、あたしが中学三年の頃のことだった。その頃、世界はゾンビで溢れていた。
「一緒に頑張ろうぜ、友里亜。」
颯太が笑いながら肩に手をおいてくれる。
「大丈夫よ。すぐに平和になるわよ。」
早苗ちゃんが励ましてくれる。
「みんな、友里亜ちゃんを信じてるんだよ?」
友恵ちゃんの一言が嬉しかった。
みんなで力を合わせた。なのに、なんで……。
あたしは辛い過去を思い出していた。
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