思いがけない事態

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待ち合わせたのはみつきさんの泊まっているホテルの一階にあるラウンジだった。 やわらかいソファに身をあずけているのに全くリラックス出来ない。 緊張して喉がかわいた。 温かい紅茶をゆっくりと飲む。 ふわっと香りが鼻や口の中に広がり澄んだ紅茶の色としっかりと茶葉のきいた味が体に沁みてきた。 気を落ちつかせろ、と自分に言い聞かせる。 仕事上ではみつきさんは私にとっては立派なクライアントだ。 「おまたせ」 一度部屋に戻って着替えたのだろう。 みつきさんはシルバーグレーの薄手のシャツにジーンズ姿だった。 シャワーも浴びたのか髪はまだ少し濡れている。 みつきさんは向かい側の席に座った。 「夜なのに紅茶飲んでるの?」 口角を上げてゆったりと笑う。 それだけなのにパッと周りの空気が華やぐ。 やはり一般人ではないオーラがあるのだろう。 ただ座っているだけなのに絵を見ているように感じる。 すごく綺麗だ。 「日本にはいつ帰ってらしたんですか」 劇場で別れた後、みつきさんのことを調べた。 パリの劇団にまだ在席しているというのはわかった。 再来月に日本の舞台に客演に来る事も。 「2日前ね、夜中ににこのホテルについたわ」 「イベントの打ち合わせにこられたんですか」 「確かに事前の打ち合わせもあったんだけど、別件があったからそのついでだったの」 「そうなんですね」 「同じバレエ団にいたみやびって覚えてる?」 「はい」 忘れられる訳がない。 「昨日あの娘の結婚式に出席したのよ」 「結婚式…」 みつきさんがみやびさんの結婚の為に戻ってきた。 みやびさんが結婚、みやびさんと結婚。 簡単な日本語なのに私は混乱していた。 彼女は私にはインパクトがありぎて思考を遮断してしまう。 トラウマとはこんなに年数がたった今も見事に復元可能なのだ、と今思い知った。 錯乱する私をよそにみつきさんは話を進めた。 「彼女、バレエをやめた後それまでお世話になっていたスポーツメーカーの衣料開発のチームに入ったの そこのご子息がみやびの事を現役の頃から好きでね、口説き落としたらしいわ みやび、幸せそうだった」 更にみつきさんは続けた。 羨ましく感じる位に、と。
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