42人が本棚に入れています
本棚に追加
ほの暗い夕闇の中でライトにほんのりとうつしだされたみつきさんはいつもの明るくて優しい彼とは違っていた。
みつきさんの顔は真剣だった。
厳しい顔、冷たささえも感じさせる瞳。
時々リハーサルの時に見ていた顔。
でもリハーサルの後はとっておきの演舞をいつも見せてくれた。
リハーサルの前よりも更にみがかれた世界がその先にあった。
舞台ではいつも私のほうが目がせなくなるぐらい彼を見ていた。
しなやかにそして軽々と体を宙に浮かせながら舞台を駆け回る彼を。
そんなみつきさんに惹かれて私はここまで来た。
多感な時期であった学生時代の2年間に彼を見つめていた事で、普通の大学生で適当な就職をする予定だった私を、彼はここまで連れて来たのだ。
私は彼の目を見た。
彼は私のことをどれ位好きなのだろうか。
そして私はこの人がまた私の人生から消えてしまっても生きていけるのだろうか。
彼は近いうちにまたパリに行ってしまう。
今度会うのが何年先かなんてわからない。
もし今関係が深くなれば別れの時がもっと辛いのではないか。
「お願い、良いって言って」
そう言って私を見つめる彼はすごく綺麗だ。
男の人だけれど性別を超越する位、美しさがオーラのように外に溢れている。
その瞳が私に訴えている。
ずっと好きだったのだ。
いない間も、気づいてはいなかったけど、みつきさんがいなくなっても他の男性に目を向ける事が今まで出来なかったのだ。
私は抵抗することをあきらめた。
最初のコメントを投稿しよう!